3ー4

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「それだけじゃないんだけど。俺は高校生になってから、ずーっと2位になってたの。もしかして、全然意識してなかった?」 「あ〜……な、なるほど!?」 「……」  名前よりも、下の順位の生徒と何点ほどの差があるか。  正直、それだけしか意識してこなかったので、俺は素直に謝らざるを得ない。 「すまん。ぶっちゃけ、いつも似たような名前が下にあるな〜くらいしか思ってなかった。一応、南波翔って名前自体は知ってたけど」 「ですよね〜……。俺、中学の時は常にトップ張ってたから、高校でぽっと出の特待生のやつに越されたのめちゃくちゃ悔しくてさ……割と結構、意識してたんだけど。そっかぁ……俺の独り相撲だったか」 「な、なんか本当ごめん……そんなつもりじゃ」 「いいよ別に。むしろ、そういうところが好きだから。俺みたいに他人より優位に立ちたいが為にテストの点をとっている訳じゃないってことがわかって、むしろ嬉しいよ」 「えっ……」  南波は『他人より優位に』なりなくて、勉強して良い順位を取っている? 俺だってまったく順位に固執していない訳じゃない。順位が低ければ、特待生としての妥当性が失われて、さらに国立大学への推薦が得られなくなってしまう。  別に大学受験くらい、俺くらいの勉強量があれば簡単にパスできるのでは? 前に純がそう言っていたけど、それはちょっと違う。俺はもちろん進学塾には行く余裕がないし、加えて生活費や進学費用を稼ぐためにバイトをしなければならない。つまり、一般的な受験生と比べて、大きな不利になってしまう。  かと言って、大学に進学せず高卒で働くというのは、短期的に見れば金銭的に悪くはないものの、長い目で見れば家族を楽に生活させるのに不安が残る。  俺は今与えられた環境で、出来るだけ効率よく、そして確実に良い大学に入りたい。だから、俺の価値を示す評価点を叩き出すために、必死に勉強をしている。それには、他の生徒がどんな人物なのかは関係ない。ただ、ひたすらに高得点、というか満点を取りさえすれば、俺の立場は安泰、なはず。  ——つまり、俺にとって「勉強」は生きること、そのものだ。と、考えることに決めていた。  それゆえに、南波の言葉は意外だった。俺みたいに打算的な目標がないにしても、せめて「学ぶことが好き」だとか「なりたい職業がある」とか、そういう理由だと思っていた。 「他人の上に立つ、ってどういうこと……?」 「いや、そんな大したことじゃないよ。昔から親によく言われててさ。『能力が高ければ高いほど、他人より優位になれる。お前も人の上に立て』ってね。……親のせいにする訳じゃないけど、そういうのってなかなか抜けないんだよね。気付いたら、集団の和の中心に入りたがっていたり、他人に指示したがってたりする自分がいて、それがすごく嫌なんだけど。……でも本心では、他人を下に見て優越感を感じたり、自分の思い通りに他人が動くとぞくぞくして。あ、ごめん引いたよね。今の忘れて」  早口でまくし立てた彼は、俺の身体に腕を強く巻きつける。
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