私の願い

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「...そうですか、ではこちらへ。」 私の願いを聞いた少女はそう言って手招くと、石段をゆっくりと降り始めた。 私は無言で少女について行く。 少女は手水場の横を通って社のある高台の裏へ回って行った。 そこにはよくある小さめの社務所があった。 壁に取り付けられた小さな扉から少女は中へ入っていく。 私は入っていいのかわからず受け渡しの窓の前で立ち止まった。 「どうぞこちらへ。」 少女が少し微笑みながらそう言うと私は恥ずかしくなって背中を丸めながら小走りで中に入った。 「この絵馬にあなたの願いを書いてくださいな。」 少女はそう言うと桜と月の綺麗な模様の入った絵馬を渡してきた。 私は一瞬迷ったもののすぐに「死にたい」と書き、少女に渡した。 「この願いが叶えられた時、あなたの大切なものを頂きますがよろしいですか?」 「...大切なもの...」 「はい。ある人にとっては体の一部、ある人にとっては家族。そんな大切なものを失う覚悟はありますか?」 分かってはいたけど、やっぱり死ぬのも大切なものを失うのも怖くなってきた。 もしも大切なものが他の人だったら? 私のせいで他の人が死んでしまったなら? 「...ごめんなさい、少し考えさせてください...」 私は立ち上がると、社務所から逃げるように走り出て、そのまま鳥居の方に向かった。 「...彼女、お前の願いの子だよな」 朝陽が社務所から出ていくと、影からすっと妖狐が出てきた。 「えぇ。」 少女───優香は特に驚く様子もなく、妖狐の隣に座る。 「どうするんだ?2人の願いどちらも叶えるなんて無理だぞ?」 「...そうね...」 優香は静かに答えると下を向く。 「もう私の答えは決まっているわ」 優香はそうつぶやくと絵馬をぎゅっと握りしめた。 “紗倉朝陽を死なせない”
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