もういいかい

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もういいかい

俺がまだ子どもだった頃、当時、ゲームといえば、ちょうどファミコンが発売されたばかりで、それでも今みたいに持ち運びして一人でできたり、オンラインで通信できるわけではなかったから、誰かの家に集まって順番に遊んだりしていた。 ゲームに飽きると外に行って遊ぶ。 これが俺たちのお決まりコースだった。 そこら辺に咲いてるオシロイバナを摘んで石で潰してジュースやお団子を作ったり、ツツジの蜜を吸ったりして、よく近所の大人に怒られた。人数が多い日はかくれんぼやドッチボールなんかもした。 こういう遊びは喧嘩も尽きないが、一番盛り上がった。 ある日、いつものメンバーでかくれんぼをすることになった。 俺、俺の姉ちゃん、ゆりちゃん、かずくん、ゆうくん、あっちゃん、てるくん、けいこちゃん、せいこちゃんジャンケンで鬼を決める。 『じゃーんけーんで、ほーい』 『あいこでしょ!』 最後は、ゆりちゃんとかずくんの姉弟対決。負けたのはゆりちゃんだ。 『かずのりー!後出ししたでしょー??もぉー!!絶対一番に見つけてやるからね!』 『へっへー!見つかんないもんねー!』 そんな姉弟の小競り合いもあって、かくれんぼスタート。 『ゆうくん、あんまり遠くに行かんでね?こないだ見つけるの大変だったんだで』 『わかったわかった。今日は1棟と2棟の間のとこまでね!』 みんなもオッケー!と返事をして、それぞれ隠れる場所を探して猛ダッシュで散らばった。俺の今日の隠れる場所はツツジの花の裏ここなら退屈になったら蜜も舐めれるし。 まぁ、すぐ見つかってもいいや。 今日は誰が一番に見つかるだろな~?ツツジの蜜を吸いながら心持ち顔を俯き加減に姿勢を低くして隠れた。 『かずのりみーつけた!』 宣言通り、かずくんが一番に見つかった。 『お姉ちゃん、目開けとっただろー??』 不貞腐れながらかずくんがゆりちゃんの方に歩いて行くのが見える。 『だってかずのりいっつも同じとこに隠れるじゃん!』 そういえば、かずくんあんまり隠れる場所変えんなぁ……そりゃ見つかるわ笑 次にけいこちゃんが見つかった。 けいこちゃんはおっとりしていて絶対最後まで残ることはない。 その点、妹のせいこちゃんはちゃっかりしていて、いつもうちの姉ちゃんや、ゆりちゃん、隠れれるのが上手い人の後にくっついていた。 ゆうくんが見つかった頃、ツツジの葉っぱがガサッと揺れた。 誰か来た……!?見つかったかな。 ふと見ると小さい女の子が立っていた。5歳くらいの女の子だ。 ……ん?こんな子おったっけ? 誰かが連れてきて途中から入ったのかな? せいこちゃんの友達かな……まぁいいや。 『立っとったら見つかるよ。こっち来て座りなよ。』 そう言って手招きをした。 その子は黙って俺の隣に膝を抱えて体育座りをした。 『何棟の子?』 『……』 聞いてもずっとこっちを見たまま返事はない。 自分の住んどるとこわからんのかな……。 『かくれんぼすき?』 この問いには黙って頷いた。 どうやら話は通じるらしいが声は出さず、頷いたり笑ったりして会話をした。 返事こそなかったが、俺は昨日、姉ちゃんが門限を破って締め出されたことや、子ども会の運動会のリレーの代表に選ばれたこと、大きくなったら一緒にリレー出ようと約束したり、マリオの裏技なんかも教えたりした。 女の子は時々、クスクスッと嬉しそうに笑ってくれるので、俺も調子に乗って色んな話をした。 どれくらい話しただろう。 『もうご飯やに~!あんたらいつまで遊んどるの~?はよ帰っておいな~』 やべ!俺の母ちゃんの声だ! 思わず立ち上がった。 『じゅんくんやっと見つけたー!全然わからんかったわー。』 ゆりちゃんがちょっと怒り気味に言った。 周りには、待ちくたびれた様子のみんなが座っていた。 かずくんは地べたに仰向けになって寝転んでいる。 『じゅん、なに~?そんなとこおったん?さっき見に行った時おらんだよ~?』 『なんで~姉ちゃんよう見た?笑 そういやもう一人でおるで~!』 そう言ってふと足元を見ると、あの子がいない……。 あの子がいなくなった。 あれ……どこ行った? 『おーい、もうかくれんぼ終わったで、帰るで?どこにおるー?』 少し大きめの声で叫んだけど返事はない。 『あんた誰に喋っとるん?笑笑 お母さんカンカンやで。もう私行くでな!』 『え……だってさっきまでここに女の子おったんやもん』 『は?今日は最初のメンバーしかおらんよ?途中で誰も入れてって来てなかったし。』 『嘘やん……』 じゃあ、あれは一体誰だったんだろう……。確かに隣にいたはずなのに……。 まぁ、いいや。また明日も会えるかな。 そう思いながら姉ちゃんを追いかけた。 『今日のご飯何か知っとる?』 姉ちゃんが悪そうな顔をして聞いてきた 『何何?その顔は俺の嫌いなやつやな?』 『当たり!八宝菜やてー笑』 『俺いらんわ』 そんな話をしながら帰った。 次の日も、その次の日もその子は来なかった。 あの日限りのかくれんぼ。 あの子はどこからやって来たんだろう? 夏休みに起こった不思議な出来事だった。
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