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Case.01 『煽り運転?』
今日から待ちに待ったゴールデンウィーク。ある家族が乗った車が、高速道路を走っていました。
「あの車、なんか変じゃない?」
後部座席に座っている中学生の娘が言いました。
「ふらふらしてんだけど」
運転中の父親もそのことに気付いていました。でも自分がその被害者になるなんて思いたくなくて、気のせいであってほしいと無視して運転していました。ところが前方を走っている車がより不自然に左右に動き、明らかな蛇行運転を始めたのです。
「まさか“煽り運転”?」
母親のその言葉に、家族三人とも同じことを考えました。
わざと蛇行運転で進路妨害し、抜かした途端前に割り込んできて停車し、そのあと降りてきて因縁を付け、窓を開けたら最後、殴られるあれです。
どんなに脅されてもドアを開けてはいけない、車のガラスは頑丈だから耐えられるとテレビで専門家らしき人が言っているのを何度か見たことがあります。でも、そうは言われても……
「あっ、止まった」
娘が叫びます。
「なんでだよ」
嘆息したのは父親でした。それもそのはず、彼はそうやって考え事をし、抜かさず大人しく後ろを走っていたからです。それなのになぜかその蛇行運転していた車は停車しました。
「あっ、やだ!?」
母親は恐怖を感じて悲鳴を上げました。あとはお約束のパターンです。その車から肩を怒らせた、いかにも因縁を付けてきそうな輩風情の男が降りてきて、こちらに向かってがに股で歩いてきました。おらおらおら、と言うのが聴こえてきそうです。
「ヤバい!」と父親
「抜かしてないのになんで!?」と娘
「……」
母親はスマホを手に取り、いつでも通報できるように準備します。こういう時、以外と女の人のほうが冷静だったりします。母あっぱれです。
「あ!?」
叫んだのは父親です。彼は接近してくる男を見て指差しました。
「ああっ!?」
「えっ、ウソ!」
「キャーーーーーーーーッッ!?」
そのあとでした。悲劇が起こったのです。男が空高く飛びました。まるでダミー人形のように。
彼は自分の停車した車の後ろから逆走して突っ込んできた車に、背後から衝突されたのです。
「人ってあんなに飛ぶんだ?」
「そうみたいね」
そう言って娘と母親はフロントガラス越しに空を見上げました。幸いにも父親を含め、彼ら三人家族は無傷でした。一方逆走してきた車は、男を撥ねた後ガードレールに衝突し、運転席はぺしゃんこになりましたが、運転手は自力で脱出し、怪我はしたものの命に別状はありませんでした。
娘が最後にこう言います。
「こわいね……“逆走”」
父親がさっき指差していたのは男の背後に迫っていた逆走車両に向かってでした。道路で危険なのは煽り運転とその輩だけではありません。まれにこんな風に逆走してくる車両もいるのです。
気を付けましょうね。
前方も後方も。
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