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Case.03 『窓にも注意しよう!』
あるカップルの休日。運転席には彼氏。助手席には彼女が乗っています。ウーハーが装備された車内には重低音を効かせたテクノ音楽が、ドコドコドコドコがなり立てるようにうるさく鳴っています。開いた窓からその騒音が漏れていることも彼らは気にしません。
「コーヒーちょうだい」
「ん」
彼女が飲んでいたス○バのカフェオレを彼氏の口元に持っていき、彼氏がストローを口に含んでズズッと啜ります。
「暑くね?」
「暑い」
「冷房付けていい?」
「変な臭いするからやだ」
車内は煙草のヤニやその他食べ物などの異臭が染み着いていて、空調を付けると送風口から異臭が混じった風が漂ってくるのでした。困ったものです。幸いこの日の気温は窓を開ければギリギリなんとか耐えられる温度でしたので、仕方なく彼氏は折れました。窓から腕を出して風に当たります。
彼は国道に入りました。アクセルを踏み込み、速度を一気に80キロまで加速します。法廷速度60キロの道路なので、これは明らかなスピード違反ですが……
「フォーーーーォォ!!」
その拍子に背中がビタッとシートの背もたれに押し付けられた彼女が奇声を上げました。急な加速がジェットコースターを彷彿とさせます。信号が赤に変わり前方にいる車との距離が狭まったので、彼はスピードを落としました。その途端、今度は体が前に揺さぶられ
「わっ!?」
彼女が手に持っていたコーヒーがストローからピュッと飛び出して、ダッシュボードを濡らしました。誤魔化すようにさっと傍らにあった紙切れでそれを拭く彼女を尻目に
「なんだよ、汚すなよ~」
「大丈夫、目立たないから」
「そういう問題じゃねえ!」と彼氏が切れます。
「まあまあまあ」
彼氏は何事か悪態を吐くと
「タバコくれ」と左手を差し出しました。
彼女はダッシュボードの上にあった煙草を手に取るとそれにライターで火を付け、彼氏の人差し指と中指の間に差し込みます。
「サンキュ♪」
彼氏がさっそくそれを口元に持っていき、一服。信号が点滅したのを期に煙草を咥えたままハンドルを左手に持ち替えると、右手で煙草を挟んでもう一服し、灰が落ちる寸前に窓から腕を出して地面に煙草をポイ捨てします。その時でした。ガタイのいい車体が横に並んだかと思うと、丁度信号が青に変わり、ダンプカーが横をスーッと通過して行きました。鮮やかなハンドル捌きで長い車体を操り、交差点を大周りで右折していきます。
「?」
カップルの男性――彼氏は右腕に焼けるような激しい痛みと違和感を覚えて、視線をそこにやりました。
「わああああああああああ!!!!????」
「きゃあああああああああ!!!!????」
彼は今のトラックに腕を持っていかれていました。千切れた腕を見て彼は絶叫し、横にいた彼女もまたそれを見て絶叫します。その拍子にハンドル操作を誤った車は、ガードレールに激突して炎上。彼女は脱出して幸い命は助かりましたが、火傷と怪我で重症に。逃げ遅れた彼氏はその後駆け付けた救急隊員に救出されましたが、運ばれた病院で死亡が確認されました。
走行中に車の窓から腕を出すのは危険です。
気付いた時にはその腕が――
なくなっているかもしれません。
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