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この記録について
――この音声記録は、先月、東京都の一角にて死亡したAgこと赤田銀太郎について独自に調査したものである。
まずは概要から。
私の兄、銀太郎はラッパーとして名の知れた人物であったようだ。
週末には決して小規模ではないクラブにて対人形式の即興ラップを繰り広げ、どちらがオーディエンスを沸かせたかを競う種目――MCバトルと呼ばれている――に身を投じ、そこで得たファイトマネーを生活費の一部に充てていたようだ。
両親は既に兄の奔放さは手に負えないと判断したらしく、実家を継がせることも諦めたのち、弟である私に白羽の矢を立てた。私もそのつもりで社会人の生活を送ってきた。
が、そんな兄といえどやはり唯一の兄弟で。私にとっての兄も、父や母にとっての長男も誰にだって代わりのきかないものだ。訃報が届いた晩は誰もが眠らぬ死人のような顔をして東京に車を走らせた。
死因は薬物中毒とされている。
警察関係者はそれ以上の説明には応えず、知り得ない真意の中央にぽっかり空いたスペースには怒りのみがコーティングされた。
私は遺体と共に両親を故郷に返し一人東京に残りる決心を固めた。
これは。
これは、兄の死のバックヤードについて私が実現可能な限りで集めた情報のクリップだ。
参考資料として、次のページは兄の部屋で見つけた書きかけだと思われる曲の歌詞を同封する。
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