The Plough

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The Plough

灰色の鉄骨が曇天に延び、罅割れた道路を雨水が穿つ。 その中を往くのは(とり)と蛙を足し合わせ、大型車両ほどに巨大化させた様な異形共の姿。 その名をWW3(第三次世界大戦)の折に作られた最凶といわれている生物兵器で合成獣(キマイラ)とも言う。 「数が多いね……」 呟く声はそこから3キロ程も離れた廃ビルの屋上から。 対戦車ライフルを抱えた十代もまだ前半――大体十二才かそこらの少女が呆れた様に呟いた。 パチリと少女の手から紫電が弾け散る。 あの異形に対抗するために人類が得た力、異能力と呼ばれるものだ。 それが緊張によって一瞬制御を失い暴走した。 ‥‥‥良くない兆候である。 僅かながら汗ばんだ小さな手で彼女は、身を包む“協会”の制服の胸元にある北斗七星の記章を握りしめた。 『まあ、いつも通りで大丈夫だよ、これ終わったら“家”に帰って祝杯でもあげようぜ。』 それを知ってか知らずか、片耳に引っ掛けたインカムが同じ班の班長の少年の声を伝える。 あとはあの異形共がこのビルの傍を通るのを待ち、ハチの巣にすればいい。 それだけだ。 そう思い、気を落ち着けるために目を閉じたその時、階下でパンと乾いた銃声が鳴り響いた。 程なくして、その音が届いたのか異形共の目線がこちらへ向く。 もとが生物兵器なだけあって合成獣(キマイラ)は五感と運動性能に優れている。 こちらが立てた銃声にも気が付いたのだろう。 「……ッ!!マズい気付かれたッ!!」 今までのろのろと歩いていた異形が突然に走り出す。 『仕方ねェ、殲滅領域(キルゾーン)をD-85-37へ変更。構えッ(テイク・エイム)撃てッ(ファイア)!!』 少年のやけっぱちな怒声が無線を走る。 同時、幾条もの火線が廃ビルから、キルゾーンへ伸びた。 勿論少女も、床に伏せて引金を引き続ける。 発射された弾の速度は、対戦車ライフルの規格外とも言える速さ、 異能者(モザイク)たる彼等の持つ異能は、電子操作系と言われる電気を操る力が殆どだ。それによって電磁的に弾を加速させているという訳である。   フレミングの法則の恩恵を受け、本来の何倍もの速度に加速した7.62NATO弾は、その弾速の二乗に比例した破壊を周囲に撒き散らす。 蛙禽(コカトリス)の体に穴が開き、(あか)の華が廃墟群と曇天の無機質な灰白色を彩っていく。   けれど、仲間の多くを失いつつも異形…合成獣(キマイラ)の群れはキルゾーンを全力で駆け抜けていく。 仮にもWW3時には現代戦車と通用する戦力となされた合成獣(キマイラ)だ。 優に時速は200km/hを超える。 ――これはキツいかもな。 そう思った時、それまで無言を貫いていた観測手(スポッター)の少女が“………あ……。”と小さく声を漏らした。    
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