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「どうしたの…?」
引き金を引く手はそのままに少女は問う。
流れるような手つきで次弾の入ったマガジンを装填して先を促した。
「……ひと、……異能者が……蛙禽と接近戦してて………」
さしもの少女も流石に驚いて息を呑んだ。
手元が狂って撃った弾が近くの街路樹に当たり、一抱えほどもあるその幹を吹き飛ばす。
「―――は……?…うそでしょう?」
もしそれが本当だとすれば、そんな事を好んでしようとする馬鹿者は自殺祈願者か完全に正気を失った者だけだろう。
一度撃つのを止め、少女は対戦車ライフルのスコープの倍率を落とし周囲を確認した。
そして気付いた。
銃では決してあり得ない、巨体を中心から真二つに割られ事切れた蛙禽の残骸を。
そして、異形の合間を駆ける黒い残像を。
それを認めて少女はさらに目を凝らす。
異能によって動体視力を増幅された視界の中でかろうじて捉えたのは曲芸舞踏でもするかのように異形共の間を飛び回り切り結ぶ黒い人影。
先も言ったが、合成獣の走行速度は優に時速200kmを超える。
斬りかかるのだって走行中のリニアモーターカーに直接触れるのと同じぐらいの暴挙で危険な行為である。
それをまるで何でもないかのように人影――彼は、時に前転し敵の攻撃を避けて跳躍。
華麗な月面宙返りを決めて、背後を奪い首を落とす。
その攻撃の遠心力さえ利用して、彼は背後に迫ってきた、もう一体の合成獣の目を脳味噌ごと自分の獲物で貫いた。
まるで曲芸舞踏のような自由奔放に、かつ急所を一ミリも外さずに貫き、斬る正確無比な動き。
それによって、キルゾーンを抜けた合成獣もバタバタ解体させられて土に還っていく。
滑らかな切断面は凍り付いて、霜が降りたようになっていた。
――“分子運動減速系”、通称“減速系”と呼ばれる異能の一つで、周囲の熱を奪い物を凍らせたり、空気等の気圧を下げたり出来る異能である。
「誰か知らないけど、助かったな。」
残るは数匹、未だ他の人員が仕留め切れていないのだ。
けれど、今の自分には彼らの動きがとても遅く見えた。
軽く息を溜めて数回撃発。
ゆるゆると発射された7.62NATO弾が合成獣の急所、心臓部と頭部、脊柱部を一発ずつ撃ち抜き、人影から距離を取るようにしていた異形達の息の根を止める。
―――これで殲滅完了。
彼女はふう、と息をついて銃爪から指を降ろす。
刹那、日本刀を腰に佩き手荷物のスーツケースを持った黒い髪の人影がこちらに向かって来るのが、異能を解除し再び早送りされていく世界の中で垣間見えた。
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