The Plough

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『最後の射撃は“ベラトリクス”お前か?ついでにただの銃撃で合成獣(あいつら)の体を真二つにしたのも。腕上げたな、正直最年少とは思えないぜ。』 全てが一通り終わって、インカムからは少し安堵したような少年の声が聞こえた。 「私が真二つにしたのは、街路樹と蛙禽(コカトリス)の足と翼だけよ。あとは急所を蒸発させただけ。」 片耳に引っ掛けているそれを外して少女はひょいとそれをあらぬ方へ投げる。 「名乗りなさいな、悔しいけど半分はアンタの功績よ。」 弧を描き落下するそれを途中で受け止めるのは彼女より頭一つ分だけ背の高い華奢な人影。 静かな声で彼は告げた。 「…本日付でお世話になります、シオン=シュヴァルツァ=アイスレーゲンです。」 見えもしないのに律儀に通信先の相手に一礼する彼に少女は笑いを噛み殺した。 長く伸ばし、後ろで結った襟足が肩から落ちてゆらゆらと揺れる。 顔を上げた少年は欧州では珍しい消炭(チャコール)の黒髪に、蒼瑠璃(ラピス・ラズリ)を思わせる深蒼色の大きめの眼という、東洋系の顔立ちをしていた。 年の頃は十五か十六か、女顔で童顔なのでもう少し年上かもしれないが。 胸元の記章は北斗七星―――同じ所属だ。 そういえば今日はまた新しい異能者(モザイク)が来るとかなんだとか、支部長も言っていたっけ。  返されたインカムを再び引っ掛けると少し困ったような顔で少年はこちらを見遣ってくる。 「…ええと、迎えの車がD-34エリアの『公園』に行くからそこで待ってろ、と言われたんだけど、案内して貰っても大丈夫…?」 不安気にスーツケースを握りしめたまま問うてくるその(さま)は、先の殺戮の嵐を起こした張本人とは、まるでかけ離れて見えて。だからその差に少女は笑みをくすり、と漏らした。      ♰ 第三次世界対戦後、暦は代わりて、彩暦10年。 嘗て、ドイツと呼ばれていた国の近く、 これは、EU連合国北方辺境のウェストミールという都市荒野(ネクロポリス)に住みにし猟狼(モザイク)達の物語。      
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