不時着した青年

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不時着した青年

 夏休みの寝苦しい夜だった。  連日続く熱帯夜のせいでどうにも眠りが浅い。  エアコンのタイマーが切れるたびに起きるのであれば、いっそつけっ放しの方がいいのだろうか。  そんなことを考えながら手探りでエアコンのリモコンを探す。 『あった……ん?』  手に何かが当たり、リモコンかと思い握りしめたところ、それが思いのほか熱を持っていることに驚き飛び起きた。  月明かりに照らされた床を見ると、そこにあったのは人の手だった。  ひゅう、っと息をのんだ。人間、驚きすぎると声は出ないらしい。  生まれて21年。俺ははじめて、人間でないものを見てしまったのだ。  ───人間でないもの? それに体温はあるのか?  その手をたどり視線をあげると、そこには自分と同い年か少し上かの男がそこにいた。  男はにこりと笑っている。 「◎△$♪×¥●&%#?!」 「は?」  男が何かを言ったが、日本語どころか英語でもなんでもない言語で、なにを言っているのか全く理解できない。 「◎&%△×¥ΛΘωДИAaあああ……どうも、コンテニュー星から来た宇宙人です。もうライフが2しかないので……急ですみませんが、セックスさせてください」  不可解な言語が急に聞き取れる、耳馴染んだ日本語に変わった。その瞬間、尋常でない速さで俺は男に押し倒された。 「は?! ちょ、なっ!」 「ライフがなくなると、死んでしまうんです」 「し、死ぬ?!」 「そうです。だからセックスさせてください」 「ちょいまてまて!」 ずるりと寝間着代わりのTシャツを脱がされる。 「大丈夫です、気持ちいですよ」 「や、やめろって!」  男の手が俺の胸に添えられた。その瞬間ぞわりと体に走った不快感に、俺は男を突き飛ばす。  男はとんでもなく軽かった。ぐしゃ、と音を立てて簡単に倒れた。  男はピクリとも動かなくなった。ゆっくり体を起こし確認すると、男がぐったりと倒れていた。 「え、嘘……死んだ? ちょ、え? お、おーい」  男の右腕に何か書いてあることに気が付いた。充電していたスマホを取り、懐中電灯機能をつけてそこを見る。  男の腕にはアルファベットの「A」に似た文字とギリシャ語の「ω」に似た文字のタトゥーがあった。  そのタトゥーの間に二本線が入っていたが、それが一本線に変わった。 「なんだ、これ」 「ライフです。もう、これが消えると死にます」  突然喋り出した男にビックリした。 「コンテニュー星の者は、すぐに死にます。代わりにライフを貯めることが出来ます。その数の分だけ復活できます。このライフ数がゼロになると完全に生命活動を停止します。もう、最後のライフです」 「あ、ご、ごめん」 「1回セックスすると、1つライフは復活します。なので、セックスさせてください」  そういうことか。そういうことか?  でも、貴重なライフを俺がひとつ消してしまったのは確かなようだ。 「なあ、セックスって言うけど、俺男だぜ?」 「我々には性別という概念は存在しません。お願いします、助けてください」  男が膝を折って俺に懇願する。 「い、痛くないのか?」 「痛みはありません。ご安心ください」  男がつるりとした素材の衣服を脱ぐ。俺は驚いた。男の陰茎は、ピンク色で、コンドームに水を入れたような……なんとも大人のオモチャのようなものだったのだ。  長さはあるが柔らかそうだし、大丈夫か。俺は男の陰茎を見て安心し、素直に股を開いた。 「うわっ!」  脂汗にTシャツはぐっしょりと濡れていた。  変な夢を見た。いわゆる淫夢、というやつだろうか。 「なんだよ俺、欲求不満かよ。いくら夢だからってそんな宇宙人のチンコ入れてんじゃねぇよ。クソが」  俺はエアコンのリモコンを取り、スイッチを入れるともう一度布団にもぐりこんだ。 「は?」  布団の中には、夢の中にいたあの男……宇宙人がいた。 「嘘だろ?」  そろりと布団を剥いで男の右腕を見る。  男の腕のタトゥーの間には、少なくとも三十本以上の線が入っていた。  1セックス1ライフ。  つまりなんだ? 俺はこの宇宙人と三十回以上セックスしたのか? 「んん、おはようございます」 「て、てめぇ! んおっ?!」  この夜這い宇宙人に鉄槌を下すべく殴りかかると、俺はこの宇宙人に抱きしめられた。 「あなたは、素晴らしい人だ。我々コンテニュー星の神となろう」 「は、はぁ?」 「こんなにも生命エネルギーの強いセックスははじめてです。あなたを連れて帰ります」 「つ、連れて帰るって……どこに?」 「私の星へ。その前に、あと五十回セックスしましょう」  宇宙人は俺に力強く笑いかけ、また、俺のTシャツを脱がせた。    ◆ 了 ◆
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