二時間前

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二時間前

 ぱぁん、と銃声が響く。  それを合図に、一列に並んでいた少女たちが一斉に走りだす。  県庁所在地にある市民運動場では、中体連の陸上競技が行われていた。  ほこりっぽい風が顔に吹きつけてきて、目を(すが)めた。 「八木さん?」  後ろから声をかけられて振り向く。見覚えのある女子が小さく手を振りながら駆け寄ってきている。確か隣の校区の生徒だったはずだ。前の大会でも顔を合わせていた。 「小森さん」 「久しぶり。ね、今年、そっちの学校、人少ないよね。宮田さんとか、吉谷さんとかどうしたの?」  無邪気に尋ねられて、僅かにためらう。 「うん……。今年は、ちょっと怪我した人が多くて」 「え? そうなの?」  ぱっ、と相手の表情が変わった。驚いたような、心配したような。 「うん。気をつけないとね」  そう、あれは怪我だ。そういうことになった。  そういうことに、なってしまったのだから。  視線を、ふらりとさまよわせる。見渡せる限りの観客席に、あの男の姿は見えない。
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