求められる筐体

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************ 初めて彼の部屋に行った日のことは、鮮明に覚えている。あの日わたしは、勇気を出して彼をデートに誘っていた。 大学に入ってすぐ、効率良く稼ぎたくて、キャンペーン関係のバイトを始めた。所謂キャンギャルというやつだが、その響きのチャラさやコスチューム、そして恐らくわたしの内面的薄っぺらさの露呈により、あっという間に悪目立ちした。ストーカーもついて事務所側も対応しきれず、当面内勤などを勧められたが、丁重にお断りして辞めさせてもらった。向いてない、そう思った。 質素で笑顔の要らない仕事がしたくて、派遣会社に登録して、倉庫内作業などに通った。しかし、毎回人が入れ替わる気軽さのせいか、一緒に勤務した人に付け狙われたり、勤務先のオジサンに変に気に入られたりして、またしてもあっという間にトラブルメーカーになってしまった。 そんなとき、たまたま入り込んだ路地裏で、目立たない雰囲気のローカルなコンビニを見つけた。大学からそう離れていないにも関わらず、今まで気がつかなかったほどひっそりとしている。店内に人気(ひとけ)はない。そこに貼り出されていたスタッフ募集の掲示を見て、これだ、と思った。学校近くなので時間を有効活用できるし、何より、静かに働かせてもらえそうだと思った。 案の定、スタッフも少なかった。同じ大学だが学部も違って全く関わりのない人が数名と、主に深夜勤務を担う男性社員が1名に、オーナー夫妻。学生たちも、敢えてここを選んだ人たちなだけあって、安心して付き合える雰囲気の人ばかりだった。 ただ、学生スタッフの最後の一人には、なかなか会えなかった。たまたまシフトが合わなかった。そして、ついに対面したのは10日後だった。 「篠宮さん、成瀬くんよ。今日は彼と二人でお願いするわね。こう見えて結構マジメだから、警戒しなくても大丈夫。ふふふ。」 チーフであるオーナーの奥さんに紹介されたその人は、あまりに少女マンガ然としていて、わたしは絶句してしまった。 うわなんだこれ、少女マンガから抜け出してきたのか? それが第一印象で、つまり、あまり良いものではなかった。これは警戒すべきキャラクターだと、全身で感じ取っていた。
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