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悶々としながら帰宅した。喉の渇きが尋常でない。
「茉帆、なんかあったろ。」
冷蔵庫を漁っていると、風呂上がりの龍弥に出くわした。間の悪さを呪うしかなかった。精神的には疲弊しているし、肉体的には昂っている。
「家ではそう呼ばないでって言ってるでしょ。」
「へぇ、誤魔化すんだ? 珍しいな。動揺が顔に出てる。」
そう言って龍弥は、わたしを押し退けてミネラルウォーターのボトルを取り出した。わたしは一つ溜息をついて、手にしていたスパークリングウォーターを所定の位置へ返却する。きっともう、冷蔵庫へ戻すタイミングはない。
「物わかりがいいじゃん、"姉さん"。」
「そりゃあ、"弟"の考えることくらい。」
背中越しに抑揚のない会話をしながら、龍弥がミネラルウォーターを口に含むのを感じた。ゴクリ、と鳴ったのは、どちらの喉だっただろう。わたしは当然のこととして振り返り、唇から直接、水分を受け取る。
「もう誰も起きてない。」
「うん。」
「飲んだ? 薬。」
「うん。」
「じゃあ、早速。」
口の端だけで笑う龍弥を見て、ひどく大人びていると思った。
彼の両親が離婚したのは、まだ彼が小学生だった頃の話だ。彼の父親とわたしの母親が再婚したときには14歳になっていて、つまり、思春期のど真ん中だった。尖ることでしか自分を守ることができなかった彼を、愚かなわたしは物理的な方法でしか慰められなかった。
「なぁ茉帆、何隠してんの?」
「何も。」
「ハッタリだね。上の空だろ? 濡れ方がちげーんだよ。」
龍弥は苛立ちを隠さずに指を突き立て、わたしの内部はガリっと音を立てた気がした。
わたしは愚かだから、受け止めてあげたいと願っていたはずだった。彼の孤独も、不安も、苛立ちも、焦燥も ―― 欲情も、全て。わたしにぶつけられるもの、全てを。それが"姉"としての気持ちなのかどうかなんて、もはや考えることすら放棄していた。
陵介さんに対して抱いた理屈では説明できない感情は、強いて言えば龍弥を受け入れたときと似ているのかもしれなかった。これはもう、抗えない性だと割り切るしかないだろうと思った。惹かれてしまうのだ。あの、猟奇的な孤独に。
しかし現実、そうやって受け止めるはずだった龍弥を持て余している自分に、何ができるだろう。龍弥以上に、彼の闇は得体が知れない。身体を開くことで心まで寄り添えるとも、思えなかった。そもそもとして、わたし自身の二の脚が、ポンコツなのだというのに。共倒れに ―― 龍弥とのことと同じ結果に、なってしまうかもしれない。
堕ちる、堕ちない、堕ちる、堕ちない
「ほら、また上の空。」
言うと龍弥はわたしの両脚を乱暴に担ぎ上げて、思い切り最奥を貫いた。無遠慮に、腹立たしげに、苦しげに打ち付けられるものを、どうしたら慰めてあげることができるのだろうか。彼の隙間を埋めることができるかもしれない唯一の人は、離婚するなり出産して、龍弥ではない誰かを育てている。龍弥のことなど、まるで初めから知らなかったかのように。
「逃げるなよ、茉帆。"あいしてる"。アイシテルっ……」
必死に注ぎ込む泣きそうな顔を、これ以上曇らせたくはないのに。
わたしがあまりにも無力なのは、あまりにも無謀だからだ。空の容器に受け入れた氷はカラコロと転がるばかりで、結局は、自ら溶けていくのを待つしかないのだった。包み込まれて溶かされるのでも、守られて形を留めるのでもなく。ただひたすらの変化をじわじわと受け入れるには、不安や焦燥が大きすぎるだろう。けれどわたしは、龍弥にそれを強いているのだ。
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