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[おはよ。昨日は付き合ってくれてありがとうね。]
健さんだった。マメな人だなと思いつつ、既読をつけないように通知フィールドで確認する。すると、更にメッセージが送られてきた。
[昨日の今日だけど、今夜会えないかな? 美味しいものでも食べに行こう。]
たった今ため息に飲み込まれそうになっていた身には、なかなかの威力をもつ誘惑だった。
そもそも、今夜は先約がある。しかし、その、後。帰された後の、返品された後のわたしに、染み入るであろうことは想像に難くなかった。
―― いや、それ最低中の最低だから。
人の痛みを慮れるようになったことについては、陵介さんに感謝すべきかもしれなかった。人にはそれぞれ心があるのだ。そんな当たり前のことを、身をもって学んでいる。
断るという作業は本当にエネルギーを要した。後回しにすると確実に明日以降にしてしまいそうだ。でも、わたしからの返信を待っているであろう健さんのことを考えると、引き延ばすのは酷なことだと今のわたしにはわかる。ほんの数行のメッセージを打つのに躊躇うのをやめて、意を決して一気に送信した。
[昨日はこちらこそありがとうございました。綺麗な夜景が見れて嬉しかったです。]
[でも今夜は先約があるんです。ごめんなさい。]
一瞬考えたが、[また誘ってください]とは、付けなかった。
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