揺さぶられる本心

5/18
前へ
/146ページ
次へ
 終わりに、した方が。  わたしがしっかり、自分の足で立てれば、彼から、離れられるだろうか。  身も、―― 心も。  小康状態が一年だ。潮時だ。これは知らせだったのだ。目を覚まさなくてはならない。目を覚ますチャンスを、モノにしなければならない。  平たく言えば、また打ちのめされていることは確かだった。しかし、目の前の光景がわたしにもたらしたのは、嫉妬や羨望だけでないのも確かだった。わたしの役目ではないと、感じたのだ。陵介さんの心に触れられる人は、きちんと他にいる。誰もいないわけでは、きっとないのだ。  それがどこか、絶望よりも安堵をもって、じんわり響いてきた。あぁ、彼は大丈夫なんだ。一人では、ないのだ。あの人とは、真っ当な関係を築いているんだ ―― たぶん。  だとしたら、わたしが存在するのは当然におかしいじゃないか。ひょっとして、ずっとお荷物だったのではないだろうか。お情けで、相手をしてくれていただけだったのだ、きっと。  そうやって考えていくと、不思議と靄が晴れたように清々しく思えてきた。本当はこの関係を負担に思って、絶ち切るきっかけを探していたのは、おそらくわたし自身だった。そして、今、ついにその機会が訪れている。踏み出さなくては、負のループから抜け出せない。  わたしは今夜すべきことを決めて、覚悟の気持ちでフレンチトーストを平らげた。もうこのカフェに来ることもないだろう。動かなくては。冷たすぎるぬるま湯から、抜け出さなくては。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加