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そうこう考えて切り出し方を練ったりしているうちに、気付けば二人の姿は店内から消え去っていた。行き先について考えるとまだ燻るものがあるから、思考をシャットアウトして自分を鼓舞する。大丈夫、これが全員にとって一番善い選択であるはず ――。
心なしか胃袋の重みがしんどく感じられたが、忘れるためにも繁華街を歩こうと思った。久々だ。何度一人でさまよったろう。水着でも買おうかな。それともこの際、誰かに拾われてしまおうか ――
浅ましい甘えに飲み込まれてもいいかなと思い始めてしまったとき、背後から突然、わたしを呼び止める声が聞こえた。
「待って、茉帆ちゃん!」
ああ、今日はどうしてこうも、会いたくない人に出くわしてしまうのだろう。
「健さん……どうしてここに?」
「どうしても何も、職場すぐそこだから。」
「あ、そうだったんですか……。」
呆けるわたしに、「俺の話、やっぱり一つも聞いてなかったね」と言って彼は笑った。どうやら、昨日の道中で詳細を聞かされていたが、わたしは上の空だったようだ。
「ごめんなさい、わたし……」
「いいのいいの、それくらい想定内!」
あはは、と感じ良く笑いながらわたしの肩をぽんぽんと叩く。こういうタイプにはあまり免疫がないわたしは、若干気圧されながら身体を硬くした。すると、彼は時計をちらりと見やって言った。
「飯に出るとこだったんだけど、茉帆ちゃんもう食べちゃった?」
「あ、はい、まさに今……。」
「あー残念。まぁいいや、俺が二人分食べるからさ、ちょっと付き合ってよ。」
言うとまた少年のようにニッと笑って、健さんはわたしの背を押すように歩き始めた。
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