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「じゃあ是非また今度、ゆっくり。あ、その前にあれか、飲み会があるか。」
一瞬浮かれた隙にうっかり次を期待させる言い方をしてしまったことを悔やみつつ、わたしたちは店を後にした。
「そうですね、再来週……でしたっけ。」
「来週じゃなかった? 来週の金曜。」
「あーそうだったかも。すぐですね。」
ということは、すぐに気持ちを切り替えなくてはなるまい。
あの店の人たちは、みんな穏やかな割に、とにかく飲み会が好きだ。OBOGも毎回どこからかわいてきて、とても賑やかになる。初めこそ面倒だと思ったものの、気を張らなくて良い人たちとの飲み会は次第に心地よくなり、楽しみになった。だから卒業した人たちもまた来るんだろうと思う。
もちろん今回も健さんには声をかけているし、声をかけた張本人の陵介さんも参加すると言っていた。人と打ち解けるのが得意でないわたしが、珍しく楽しんで参入している場だ。濁したくない。割り切った気持ちと態度で臨めるようにしなくては。
それからの時間は、案外あっという間だった。あれこれ考えていたのは最初の数十分ほどで、すぐに思い切ることにした。なるようにしかならない、と。自分を信じるしかなかった。
行かずに、もうそんな形で会うことはなしに断ち切るというのが、本来は正しいのだろうとも思った。だけど、それでは断ち切れないということだけは確信できた。次に会ったときに、間違いなく揺らいでしまうだろう。ならば、きちんと。
覚悟の気持ちで部屋の前に立った。19時7分。うん、ちょうどいい。
押し慣れたインターホンの前で時間を再確認したわたしは、その指を押し込んだ。応答する声はなく、代わりに家主が慣れた様子で顔を覗かせる。
「いらっしゃい。」
「おじゃまします。」
玄関ドアを開けてわたしを招き入れた彼の笑顔は既に妖艶で、これからの行為を想像させた。反射的にまた耳の下辺りが熱くなった気がして、思わず少し俯いて誤魔化す。その拍子に、彼の好みに合わせた自分の服装が視界に入り、悔やんだ。
「よく心得てるよね、俺のツボを。」
ああ、ほら、これはよくない。
「そのつもりでしたが、気が変わりました。」
「却下。着たまましよ。」
言うなり彼は、わたしの些細な抵抗を全力でスルーしてひょいと抱き上げた。これには弱いので勘弁願いたい。チープなわたしの決心がぐらぐらと揺らぐ。最後の一回くらい、堪能してもいいだろうか ――
よくない。また繰り返すに決まってる。
「待って、陵介さん、違うの。」
「何が? 何が違うの? ここまで来ておいて、何が違うって言うわけ?」
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