揺さぶられる本心

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 陵介さんはわたしを組み敷いたまま、穴が開くほど凝視していた。  「陵介さんのことが、すきです。それは今でも変わりません。でも、だからこそ、もう苦しいの。」  消え入りそうな声が震えた。どうしてこんなにうまくいかないのだろう。笑顔でさよならするはずだったのに。どうぞあの人とお幸せにって、余裕のあるところを見せたかったのに。最後の最後に、こんな、恋人同士のケンカみたいな ――  「都合のいい女で構わないと思っていました。愛してくれなくても、そばに置いてもらえればそれでいいと思っていました。でも、欲が出ました。会えば会うほど、感情が止められなくなるんです。でも、抱いてもらうほど陵介さんが遠退いていく気がして、手に入らないって思い知らされて、怖かった。  だから、もう、会いません。迷惑な女になる前に、嫌われる前に、いなくなりたいです。……陵介さんのことちゃんとわかってる人、他にいるみたいだし。」  最後の一言は完全に余計なのだが、零れ始めてしまった本音を、もう止めることができなかった。陵介さんは明らかに反応して、更に表情が険しくなったことが気配でわかるが、視線は合わせられなかった。  「……どういう意味? それ、誰のこと言ってるの?」  どの口が言うか、と思ったが、この口なら言いそうだった。こうなったら話してしまった方が、事の収まりがいいかもしれない。昼間見た思い出したくない光景を、自分で口にするのは物凄く抵抗があったけれど ――  重い口を開こうとしたそのとき、インターホンが来客を知らせた。
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