揺さぶられる本心

15/18
前へ
/146ページ
次へ
 わたしと彼が交わっていることを思い知らせる音が響く。  こんなにも明快なのに、こんなにも曖昧。今日の彼はやはりどこか違う気がするのに、わたしはそれを訊ねることができない。何故、どうして、ここにいるの。これじゃあ、いつも以上に、帰りたくなくなっちゃうじゃないですか。  壁に爪を立て、弾かれ、それが掌に食い込む。下唇をきつく噛み締めても、鼻から抜けるように矯声が漏れた。浴室内に反響するわたしの声は、我ながら痛々しかった。  彼が昇り詰めようとしている。やっぱり今日は変だ。しかし、心の内の葛藤などまるで無関係のように、熱い彼の呼気に、質量を増す彼自身に、わたしも翻弄されていく。飼い慣らされて、彼だけをひたすら求めるように、わたしは躾られた。  そうして、彼はわたしの耳元で、とどめをさした。  「ああ、イく……っ………っ!」  だから、この声に、弱い。彼はこれでもかというほどに奥の奥まで貫き、そこで弾けた。声を噛んでいるのがわかる。さっきしたばかりなのに、さっきよりも。  わたしが器として、立派に責務を果たせた瞬間だ。安堵に崩れるわたしは、まだなお注ぎ込まれる感覚に陶酔して、彼の後を追った。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加