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二人とも、しばらく動かなかった。動けなかった、が正しいかもしれない。いつになく直情的だった行為は、いつにない快感をもたらしていた。ただ、ひたすらの、恍惚。
そのうちに彼は、くず折れそうなわたしの腰を支えて、ゆるゆると掻き回し始めた。
「ゃっ………もう、いつまでいるんですか。」
「んー、勃たなくなるまで?」
「それ、いつですか。元気すぎですよ。」
「茉帆ちゃんの中が気持ちよすぎなんだよ。」
そう言われて、突然違和感に気付いた。そう言えばあのとき、陵介さんはわたしを『茉帆』と呼んでいなかっただろうか。
それは、絶対に越えてくれない一線だった。最中でさえ『ちゃん』を付けることを怠らないのは、牽制だと理解している。だから、もし、それを越えたのだとしたら。わたしを引き留めたいがために、彼が境界線を侵した……?
なんていうのは、都合のいい解釈に違いないとわかっているつもりなのに。だって、彼は、何も言わなかった。引き留めたかったのが本当だとして、あくまでも、それは、コウイウ関係として。
ああ、まだ、わたしの心は諦めを知らないのか。
「あーだめだ、もう一回。」
「うそ、ですよね。」
「俺、嘘吐いたことあったっけ。」
――― 嘘しか吐いてないと思います
「でも、これはほんと。」
呟いて彼は、己の昂りを証明してみせた。
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