4711人が本棚に入れています
本棚に追加
「香水変えましたよね。」
「さすが、よくわかるね。気に入った?」
「こっちの方がすきかもしれません。すごく似合ってる。」
「そそられちゃう?」
「そそられちゃう。」
ろくでもないやり取りを繰り返し、気付けば1時半を回っていた。
よく付き合ってくれるな、とは毎回思っていた。彼は案外、わたしが満足するまで切ろうとはしない。だからうっかり、時間に気付かないフリをしてしまうのだ。でも、さすがにそろそろ潮時だろう。
「明日も、早いんですよね。」
「そうだよ。起きれないよ。茉帆ちゃんのせいだよ。」
「そうですね、ごめんなさい。陵介さんからの電話が嬉しくて、つい引き延ばしてしまいました。」
「可愛いこと言うね。そういうとこ好きだよ。」
「期待してしまうのでやめてください。」
「あ、それは困るからやめとく。」
ちょろい女なので、いとも簡単に上げて落とされる。対外的でない顔つきの彼が容易に想像でき、ゾクゾクした。あぁ、ちょろいというより、マゾヒストなのだろうか、わたしは。
「相変わらず正直ですね。ところでしますか、いつもの。」
「してくれるの?」
「そういう流れでしたよね。」
「まぁそんな淡々と言わなくても。6時にお願い。」
「わかりました。」
「楽しみにしてるよ。おやすみ。」
おやすみなさい、と呟きながら電話が切れるのを待った。珍しく、今日は少し長い気がした。
5時50分にアラームをかけ、眠る準備をする。考えるべきことはあったが、今は向き合いたくなかった。逃げるように陵介さんの体温を思い出し、再現する。そこに温かみは得られないが、罪を自覚して溺れるのには充分であった。
思い知りたかった。自分がどんな人間であるかを。
彼に、愛されるはずなどない人間なのだということを。
最初のコメントを投稿しよう!