望まれない好意

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望まれない好意

そろそろか、な…… 液晶画面で時間を確認する。0時半。いつもあの人からの電話がくるのはこのくらいの時間だ。 何の約束があるわけではない。わたしたちの間にそんなものはない。ただ、今日は確実に電話がくる。確信があった。 何を言われるにしろ、この電話自体がろくでもないことは明らかだった。軽い自己嫌悪に陶酔するかのように、わたしは目を閉じてベッドに横たわりながら、ただ、そのろくでもない電話を待っていた。 あの後、健さんはわたしをドライブに連れ出した。断る口実もきっかけも見失ったわたしは、彼の気が済むならと思い始めていた。 健さんとは、バイト先の飲み会で知り合った。駅前の大きな飲み屋で新年会をしたとき、たまたま隣の座敷にいたグループの中に、健さんがいた。わたしたちのグループの前を通り過ぎるときに、その中の一人が"親友"であることに気付いた彼が、こちらに合流してきたのが始まりだった。 それからは、飲み会の度に、何故か彼も参加するようになった。そもそもが大人数だったし、いつも明るく気の利く彼を、邪険にする人はいなかった。彼が来ることを期待して飲み会に参加する女の子も出てきたため、もはや呼ぶのが当然という扱いになっていた。 だけどわたしは、なるべく近付かないようにしていた。確かに感じのいい人だなとは思っていたものの、如何せん肩書きがマズい。"親友"の想い人にでもなろうものなら、元から少ない可能性が更に低下してしまう。自意識過剰ではあるものの、彼に気に入られることを恐れたわたしは、関わらないように、可愛い子ぶらないように、万全の対策を敷いてきたはずだった。 そういうときに限って、だ。 あの場で連絡先の交換を断れるほどわたしの心臓は鋼ではないし、空気を読めなくもない。もしくは、彼のやり方が巧すぎたと思う。順番に交換をしていた中でわたしの番が回ってきただけだったのだし、それを断るなんて今のわたしにはできない。 でも、直感だった。自意識過剰だからこそ気付いた。ターゲットは自分なのだと、その目を見て確信した。 そして案の定、今日に至っている。次善策は浮かばないままだったが、目を背けることもできなかった。受け止めるしかないだろうと覚悟を決めてやってきたはずだった。でも実際、受け止めきれないものの重みというのは、痛みにも似てのしかかってくる。
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