鬱ぐ、つかまる

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鬱ぐ、つかまる

 こんなに長くて陰鬱な一週間は初めてだった。  わたしは、あの日の光景を振り払えずにいた。タイミング良く現れた女性、応じる陵介さん。わたしを駅まで送っていくと言ったのは口実かついでで、目的はあの女性だったのだろうか。  そして昨日、初めて陵介さんからの誘いを断った。  馬鹿みたいだと、自分を嘲笑った。今まで奇跡的に目の当たりにしなかっただけで、こんなの、ずっと、あったに決まってるのに。相手女性の顔を知らなかったから気付かなかっただけで、もしかしたら彼女とはあの駅で、何度も、すれ違っていたかもしれない。  わたしが帰された後のあの部屋で、朝まで過ごしたのだろうか。或いは、翌日も。そんな相手が彼にいることは、喜ばしいと思わなくてはならないのに。  想像してしまうことを、やめられなかった。なまじ知っている陵介さんの身体が、声が、指先が、彼女を求めているところを。  詰まるところ、わたしは確かに、嫉妬しているのだった。  全く可笑しな話である。されるならともかく、する側になる権利すらない。わかってる。頭ではわかっているが、感情が追い付かない…なんて、こんなありがちなところに、自分が迷い込むとは。  とりあえず、今夜の飲み会は欠席しよう。理由など、体調不良でもなんでもいい。とにかく今は、彼の顔をまともに見られる自信がない。  学校帰り、飲み会まで時間を潰すか帰宅するか散々悩んだ結果、そう結論付けた。駅ナカの本屋を出て、改札へ向かう。  とそのとき、うっかり、見つかってしまった。  「茉帆ちゃん! ちょうどよかった、一緒に行こう!」  張り切りすぎの時間にスタンバイしていたらしい、健さんだった。
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