45人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
三花 二〇一二年 八月三十一日
夏の暑い日だった。
部屋に冷房なんてかかっていなかった。
だけどそんなことを気にする余裕もなくて、泣きながら大切な物を鞄に詰めた。
「終わったか?」
「まだ……入んないよっ」
「0時過ぎたら出るからな、急げよ?」
お兄ちゃんも泣きそうなのに優しくて、そのせいで余計に涙が止まらない。
「学校はぁっ?」
「新しいところ探そう、どちらにしても、もう通えないって」
「ほんとに、家出てかないといけないの?」
「もうこんな家住めないだろ?」
友達からは『ぜつえん状』が届いた。
電話は鳴りやまないから回線を切った。
窓はレンガを投げ込まれて割れた。
玄関前はゴミで散乱してる。
外に出れば避けられ、罵倒を浴びる。
外の壁は『人殺し』の落書きで埋まってる。
毎日怖くて仕方がなくて、できるだけ物音をたてないように生活した。こんな夜に小さな懐中電灯の明かりで荷造りして、真夜中に逃げるように引っ越す。
ーー何で?
ーー何で?
ーー何で私達が?
ーー何でこうなったの?
最初のコメントを投稿しよう!