三花 二〇一二年 八月三十一日

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三花 二〇一二年 八月三十一日

 夏の暑い日だった。  部屋に冷房なんてかかっていなかった。  だけどそんなことを気にする余裕もなくて、泣きながら大切な物を鞄に詰めた。 「終わったか?」 「まだ……入んないよっ」 「0時過ぎたら出るからな、急げよ?」  お兄ちゃんも泣きそうなのに優しくて、そのせいで余計に涙が止まらない。 「学校はぁっ?」 「新しいところ探そう、どちらにしても、もう通えないって」 「ほんとに、家出てかないといけないの?」 「もうこんな家住めないだろ?」  友達からは『ぜつえん状』が届いた。  電話は鳴りやまないから回線を切った。  窓はレンガを投げ込まれて割れた。  玄関前はゴミで散乱してる。  外に出れば避けられ、罵倒を浴びる。  外の壁は『人殺し』の落書きで埋まってる。  毎日怖くて仕方がなくて、できるだけ物音をたてないように生活した。こんな夜に小さな懐中電灯の明かりで荷造りして、真夜中に逃げるように引っ越す。  ーー何で?  ーー何で?  ーー何で私達が?  ーー何でこうなったの?
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