三花 二〇一二年 八月三十一日

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 辛くて辛くて嗚咽が止まらなかった。  そして日付が変わる直前、お父さんがお姉ちゃんに聞いた。 「二葉、本当に一緒に来ないんだな?」 「うん、行って……」  入院中は錯乱を繰り返したお姉ちゃんは、つい一週間前に退院してからは急に大人しくなった。部屋に閉じ籠もり、ベッドにもたれ掛かるように座ったまま宙を眺めてる。 「信吾……マイ、ミコ……ナツキ、ケイタ……」  亡くなったクラスメイト達の名前を呼ぶばかりで、こちらを見てもくれない。呼び掛けて視線が合うことがない。  たった一ヶ月で元気だったお姉ちゃんは見る影もなかった。 「わかった」 「お金、置いていくからね」  そう言って封筒を置いたお父さんとお母さんは、少し安心したように見えた。  お姉ちゃんを部屋に残して、四人でご近所に気づかれないように静かに家を出た。  これがお姉ちゃんを見た最後だった。
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