三花 七月七日

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 だけど、おかしい。  腕をとっても力が入っていない。  ふと足元を見て、足が濡れていることに気がついた。その真っ赤な液体は唯から続いている。 「え……?」  恐る恐る唯の体を起こして、そして後悔した。  お腹の肉がない。  抉りとられている。  しかし三花が悲鳴をあげようとした瞬間、隣から絶叫が響き渡った。 「うわぁああああっ!」 「どうしたっ!?」 「ゆ、祐介っ、顔がっ、顔がないんっ! 顔が、つっつぶ、潰れてっ!」  見れば、昌平が抱え起こした祐介の顔は原型を止めていなかった。鼻は潰れ、眼鏡はひしゃげ、目に食い込み、血塗れになっている。    二人とも生きていないことは明らかだった。 「嘘っ……切山さん、唯は!?」 「ダメ……」 「そんなっ」  その時、向こうで何かが動く音がした。何かが駆けてくる音。人じゃない。これは四本足の動物が走る音だ。  気づいた時には透が叫んだ。 「急げ! 町田連れて、そこの教室入れっ!」  視界の端に白と赤の毛だらけの塊が映る。  あのウサギの化け物だ。 「あっああっ!」 「切山さん、扉開けてっ!」    三花が扉を開け、そこに那智を支えるめぐみと昌平、そして、晋司を抱えた透が駆け込んだ。ウサギはもうすぐそこまで来てる。 「いやあっ!」  扉が完全に閉まった時にはウサギの顔は目の前にあった。    
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