三花 七月八日

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「全員書いたか?」 「……ああ」 「こっちも全員オーケー」 「わかった……」  あみだくじの用紙は最後に二葉に戻された。痛い程の視線と沈黙の中、紙が僅かに擦れる音がやけに大きく聞こえる。  ◯印をつけた場所から上へ線をなぞり、そして辿り着いた。書いてあるのは苗字だけ。男子か女子かもわからないけれど、字は少し震えている。 「……倭多野さん」  一瞬の間。 「そんなっ……」  崩れ落ちたのは倭多野宏。生物部で魚の飼育を担当しているクラスでも大人しい男子生徒だ。 「何でっ……俺、あいつに殺されるのか……?」  まるで譫言のような言葉に、誰も何も答えられなかった。  どうしても助けを求めて二葉を見てしまう。三花も思わず姉の顔を覗き込んで、そして息を飲んだ。 「……そうね」  その表情は悲しくて、でも無理矢理微笑んでいる。 「もし間違えたら殺される。でもここにいる誰か一人でも正しい探し物を見つけられたら、生きて戻れるわ」  宏は数十秒俯いた後、何も言わずに小さく頷いた。
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