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三花の家は学校から徒歩二十分程のアパートだ。築五十年、決して綺麗とは言えないし、部屋も狭い。だけど、二間あって小さなお風呂とトイレもついている。それで家賃が月五万円だから有難い。
「ただいま」
声をかけても一度では返ってこない。
「ただいま」
歩みを進めながらもう一度言って、初めて顔をあげた。
「おかえり」
着古したスウェット姿で床に座るお母さんの周りには、内職で作った造化が散乱してる。もう何年も化粧もしていない顔には、疲労が溜まっていた。
「ああ、もうそんな時間なの。三花、夕飯の材料買ってきて」
「お母さんもたまには外に出ない?」
「こんな格好で出れるわけないでしょ、まだ今日の分全然終わらないのよ」
そう言われては何も返せず、ただ。
「わかった」
頷くしかない。
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