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毛むくじゃらの物体が凄まじい速さでアイリの体を突き刺した。
ーー手だ。うさぎの化け物の手だ。
理解できた時には血が飛び散っていた。
「いやぁーっ!」
「アイリっ!」
「ダメっ!」
貫通している。アイリの背中から鋭い爪が生えていて、もう助からない事は明白だ。
その上、化け物は教室内に入って来ようと手を伸ばしてくる。今は巨大な頭がつかえているけれど、それも時間の問題に見えた。
「行ってっ!」
二葉の叫びに反射的に体が動いた。
「行くぞっ!」
「ああっ」
透が先頭に立って反対側の扉を開く。
「とにかく近くの教室に入って扉を閉めるんだっ!」
化け物達は二羽ともアイリが開けた扉から入ろうと格闘している。今ならいける。みんな我先に教室を飛び出した。
そんな中、三花だけは扉の前で足を止めた。
「何をしてるの! 行って!」
「だってお姉ちゃんっ……」
行けるわけがない。
二葉は反対側の扉の前に立ったまま動こうとしなかった。化け物達の視界には二葉しか入っていない。二葉に向かって二羽が争うように手を伸ばしている。
あと数センチ。今は掠りそうでギリギリ届いていない。
でももし、二羽が争うのをやめたら。一羽だけが手を伸ばしたらきっと届いてしまう。そんな距離だ。
それでも二葉は動かない。
ーー囮になろうとしてる……。
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