三花 七月八日

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 毛むくじゃらの物体が凄まじい速さでアイリの体を突き刺した。  ーー手だ。うさぎの化け物の手だ。  理解できた時には血が飛び散っていた。 「いやぁーっ!」 「アイリっ!」 「ダメっ!」  貫通している。アイリの背中から鋭い爪が生えていて、もう助からない事は明白だ。  その上、化け物は教室内に入って来ようと手を伸ばしてくる。今は巨大な頭がつかえているけれど、それも時間の問題に見えた。 「行ってっ!」  二葉の叫びに反射的に体が動いた。 「行くぞっ!」 「ああっ」  透が先頭に立って反対側の扉を開く。 「とにかく近くの教室に入って扉を閉めるんだっ!」  化け物達は二羽ともアイリが開けた扉から入ろうと格闘している。今ならいける。みんな我先に教室を飛び出した。  そんな中、三花だけは扉の前で足を止めた。 「何をしてるの! 行って!」 「だってお姉ちゃんっ……」  行けるわけがない。  二葉は反対側の扉の前に立ったまま動こうとしなかった。化け物達の視界には二葉しか入っていない。二葉に向かって二羽が争うように手を伸ばしている。  あと数センチ。今は掠りそうでギリギリ届いていない。  でももし、二羽が争うのをやめたら。一羽だけが手を伸ばしたらきっと届いてしまう。そんな距離だ。  それでも二葉は動かない。  ーー囮になろうとしてる……。
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