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第三章
「仕方ない、あいつに頼むか」
仕事が忙しくなり、兄を捜すこともままならなくなった。多忙だった仕事が落ち着いた12月初めの日、僕は、幼なじみである香坂に電話をした。香坂は探偵社で調査員として働いている。スマホの電話帳から香坂の番号を検索すると、電話をかけた。
「もしもし、香坂?」
「桂木か、久しぶりだな」
「あのさ、確かお前、探偵事務所で働いてたよな?」
「ああ、郷原探偵事務所だけど?」
「郷原?超大手じゃないか!テレビの『あの人に会いたい』とかで名前を聞くよ」
「で、どうしたんだよ」
「あのさ、家出人調査もやってるか?」
「あのな、探偵社って言うのは、不倫や浮気の調査ばっかやってるって訳じゃないぞ。家出人の所在調査もするさ」
「お前に直接依頼するのはまずいか」
「当たり前だろ、ちゃんと正規に依頼をしてくれないと」
「だよな、何時までやってったっけ?」
「依頼は24時間受け付けてるぜ」
「明日、会社に寄るよ」
「ああ、分かった」
僕は、電話を切ると、実家に電話を入れた。兄の所在調査を探偵社に依頼することにしたことを母に話した。明日、会社の帰りに探偵社に寄り、色々と相談し、依頼することも話した。母は、兄が家を出たいきさつをメールしてくれた。僕はそれをプリントアウトし、それをクリアファイルに入れると、会社に持って行くバッグに入れた。
「兄貴、今、どこに居るんだよ。父さんも母さんも心配してるんだぞ」
僕は、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、プルタブを起こし、口を付けた。今夜のビールはいつもより、苦く感じた。
「あの。すいません。家出人の所在調査をお願いしたいんですが」
「はい、当社をご利用いただくのは、初めてですか?」
翌日、僕は、会社が終わってすぐ、探偵事務所へと行った。受付を済ませ、担当者の人と会った。僕は、兄の名前、母からのメールを担当者に渡した。担当者は、香坂と彼よりも経験豊富そうな調査員の二人で行うとのこと、打ち合わせをした後、僕は、見積書をもらい、事務所を後にした。その足で実家に行き、母に見積書を渡し、費用は自分が出すと伝え、実家を後にした。
「はい、桂木です」
調査を依頼してから、二日後、兄の所在が分かったと探偵社から連絡があった。翌日、探偵社に行き、調査報告書を見ると、兄は今、新宿二丁目にある「ウェアバウト」と言うショーパブで働いていて、その近くにあるアパートに住んでいることも分かった。僕は、調査代金を支払うと、報告書を手に探偵社を出た。
「新宿二丁目か」
アパートに帰り、報告書に目を通すと、ノートパソコンを立ち上げ、店のホームページを探した。店の名前を入れ、検索すると、ホームページはすぐに見つかった。店の地図印刷し、スマホを手に取り、母に電話をした。探偵社から、報告書を受け取り、代金を支払ったこともすべて話し、久しぶりに実家に帰ることも話した。
「なんか、久しぶりに帰って来た気がするよ」
「そうねえ、就職決まって、家を出たからずいぶんになるわね」
「あ、母さん、これ、報告書。兄貴の居場所、見つかったって」
上司から有休を消化しろと言われ、僕は、三日間有休を取った。有給初日、僕は、報告書を持って、横浜の実家に向かった。家に入ると、僕は、リビングで両親に報告書を見せ、渡した。
「新宿二丁目?京ちゃん、そこに居るの?」
「京一はそこに居るのか?」
「うん、僕もその話を聞いて、驚いたんだ」
「光、ごめんなさいね」
「すまんな、光」
「いいよ、父さん。母さん、僕の部屋、そのまま?」
「そのままよ」
「泊まっていっていいかな?」
「いいわよ」
僕は二階に上がると、部屋のドアを開けた。懐かしい匂いがする。部屋に入ると、ベッドに横たわった。天井を見上げ、深呼吸をした。起き上がると、僕は、兄の部屋に行った。
「兄貴の部屋って入るの、何年ぶりだろう」
一緒に住んでいた頃は、本や参考書、CDの貸し借りをよくしていたので、互いの部屋をよく行き来していた。部屋のドアを開けると、中に入り、本棚に近寄った。目にとまったのは、書店のブックカバーが掛けられた一冊の本だった。
「兄貴、もしかして……」
その本の扉を見たとき、僕は確信した。あの夜の父とのけんかは、この本に書かれていることがきっかけだと。
「光、ご飯よ」
気づいたら、その本を一冊読んでしまっていた。母の言葉に我に返った僕は、兄の部屋を出て。ダイニングに行った。久しぶりの母の料理に舌鼓を打ちながら、父とも会話をした。
「父さん母さん、僕、兄貴に会ってくるよ。全部話してくる」
「ごめんなさいね。光、あなたに色々頼んでしまって」
「気にすんなよ、母さん」
「すまない、光」
「父さんは、まず、自分の体のことだけ考えろよ」
その日は、風呂に入り、自分の部屋で寝た。翌日、父の入院のための買い物に付き合い、外で食事をした。翌日、僕は、アパートに戻った。
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