亮輔の青い携帯電話

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亮輔の青い携帯電話

 どんなに悲しくても、どんなに辛くても、日々は変わらず過ぎていく。  疲弊により眠りは訪れるし、亮輔の死の直後は受け付けなかった食事も、初七日が終わった頃には喉を通って空腹を満たした。  頭は拒否しても、生きている限りは体が生に執着するのだ。  ただ、亮輔の四十九日まで、開は亮輔の家に近付くことはできなかった。亮輔のいた気配が色濃く残るものに触れると、心と体が解離して立っていられなくなる。学校でも、教室や体育館にいるのは苦痛で吐きそうになる毎日に耐えた。 *** 「開くん、これ見て」  亮輔の母は少しずつ笑顔を見せるようになっていた。  四十九日の法要で、穏やかな表情で開に声をかけたその手には、亮輔の使っていた携帯電話が握られている。 「事故当日に持ってたものをね、やっと整理したの。事故に合う前、最後に会話したのは開くんだったんだね。メールも通話記録も開くんが最後なんだ。ほら」 「……あ……」  携帯電話の発信履歴を見せられて、開は息を止めた。  最後の会話が甦る。 『俺な、カイが好きだ』 『帰ったらすぐにカイのとこ行くから。やっぱ顔見て言いたい!待っててな』 「ごめんなさい、僕が……」  咄嗟に出たのは謝罪の言葉。  開には亮輔の死の直前の時間を自分が奪った罪悪感があったが、それとは別に、学校で知った話でも自分を責めていた。  あの日、バスケットボール部の打ち上げが終わったあとすぐ、亮輔は一人で走り出してチームメイト達より一本早い電車に乗ったのだ。一刻も早く開に会いたかったのだろう。  でも、皆と一緒に帰っていたら? 自分に会いに来ようとしていなかったら?  開はそうやって激しく自分を責めた。 「えっ、なんで謝んの。違う違う。責めてるんじゃないからね。ただ、亮輔が最後にどんなことを言ってたのかな、ってね」  言葉が詰まる。言えるわけがなかった。まっすぐ生きてきた明るく優しい亮輔が、まさか同姓である自分を好きだと言っていたなんて。
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