芽生え

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芽生え

 山室開(やまむろかい)が自分は他人とは違う、と気づいたのは、中学二年生の時だった。  友達同士で「大人鑑賞会」と銘打たれた会……アダルトDVDを見るということだが……が開催されることになり、性的な類に年相応の興味がないわけではない開も、悩みつつ友人からの誘いに頷いた。  小学校の頃、総合教育の時間に性教育授業があると皆と一緒に浮足立ったし、子供が生まれる仕組みを学んだ回では、いつか自分も女の子と「こういうこと」をするんだと、未知の世界に胸を高鳴らせた。  ただ、アダルトDVDが「こういうこと」をわざといやらしく見せる映像だという知識は勿論あり、参加するとは言ったものの、日を追うごとに後ろめたさが心に生まれた。  しかし、鑑賞会に参加するのは開を含めて全員で五人。学校で共に行動する友人達だ。いつも明るい彼らがいれば、そんな映像でも人気アニメやゲームの映像を見るように時間が過ぎるだろうという安心感、そして皆も見るなら自分も見ないと、という連帯感が開にはあった。  そして当日。 「鑑賞会」に参加したのは結局二人。クラスメートで一番仲の良い吉田と開だけ。 「結局二人だけか」  吉田がDVDをセットしながら言った。 「急な部会だって言ってたね。サッカー部って横暴だよね」  他に参加する予定だった三人はサッカー部所属だ。中間テスト明けの今日までは部活が休みのはずで、それに合わせて日を決めていたのに、顧問の急な招集により泣く泣く部室へ走って行った。 「今日はやめて、みんなが揃ったらにしない?」 「今さらなに言ってんだよ。観るに決まってんじゃん。隣の大学生からコレ借りれるの、明日までなんだ。今日は母ちゃんも帰りが遅いしさ。見る人数が五人でも二人でも一緒だよ。ほら、開、座れよ」  二人だけで見ることに気まずさを感じつつ、鼻息の荒い吉田に苦笑して頷いて、カーペットに身を縮めて座った。  そして、吉田の四畳半の部屋で灯りも付けず、カーテンも締め切っての鑑賞会が始まった。
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