不憫な子の願い

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赤いふちの大きなめがねをかけた、目がクリッとしたかわいらしい女の子だった。 なぜだか時々、俺が操作しているパソコンを見て、笑みを浮かべていた。 ここは市立図書館で、持ち込みのパソコンを使用できるエリアだ。 女の子は絵本や漫画を読んでいた。 時折、兄のような10才程度の男の子が来て、小声で何かを話してから、男の子だけが立ち去った。 女の子は笑みを浮かべながら絵本を見入っていた。 数週間後、インターネットニュースで、その女の子の顔を見つけた。 もちろん訃報だろうと俺は愕然とした。 だがその女の子の顔はインターネット上からもすぐに消えた。 誘拐され、顔写真を公開されたのだが、遺体で発見されたようだ。 それっきりニュースは流れなかった。 死因は窒息死。 ―― 絞殺じゃない? ―― と俺はいらぬ想像をした自分自身を責めた。 しばらくしてからまた俺は市立図書館に足を向けた。 空いている席に自然に座ったつもりだったが、あのかわいらしい女の子が座っていた席だった。 俺は特に考えることなく、カバンからパソコンを出し、ACアダプターを接続した。 ふと、何かの気配を感じた。 見られている感覚だ。 とはいえ、この早い時間には、図書館にそれほど人はいない。 360度辺りを見回したが、目に入ったのは三人で、こちらを見ていた気配はない。 女の子のことを考えていたので、気の迷いだろうと思って椅子を少し前に出し、姿勢を正してパソコンの画面を見た。 やはり、視線を感じる。 これは気のせいではなかった。 テーブルの下に、赤いふちのめがねと、俺を見ている黒い瞳があったのだ。 俺の体は硬直した。 その黒い瞳に吸い込まれるように感じた。 それは一瞬だったのか数分だったのかわからないまま、ふと気づくとあの子の目も赤いふちのめがねもなかった。 ―― 気にしすぎ、気の迷い… ―― と俺は思いながらも、テーブルの下をなにげなく見た。 何か白いものが落ちていた。 紙くずに見えた。 気になった俺はすぐに拾って、少し丸められていた紙を広げた。 縦横五センチほどの、女の子が好むようなかわいらしい付箋だった。 そこには、『いぬのおじさん』と幼児が書いたと思われるたどたどしい文字が並んでいた。 まったく関係ないかもしれないのだが、俺はすぐに警察に通報した。 結果を聞いたのは明くる日だった。 女の子の家の近くに住む、小型犬を飼っていた初老の男性が女の子を誘拐して殺害したそうだ。 「不思議な話ですけどね、私としては初めてのことではありません」と刑事が言うと、俺は苦笑いを浮かべたことだろう。 今日も図書館にやってきた。 できれば、あの女の子と話しをしたいと馬鹿なことを考えたのだ。 女の子が亡くなってもう数ヶ月経ったのだが、あの赤いめがねのかわいい女の子を見つけることはオレにはできないでいる。 ―― 完 ――
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