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なんだ? 誰か体育で怪我でもしたのか? それとも化学の実験で爆発でもやらかしたか?
「やっと来てくれたみたいね……今、救急車呼んだからもう大丈夫よ」
そんなことを考えて他人の心配をしていると、不意にベッドを覆うカーテンが開かれ、保険医の先生がなんだか場違いな微笑みを称えながらそう告げた。
「失礼します。こちらが搬送を依頼された方ですね?」
時を置かずして、今度は保健室のドアが乱暴に開けられると三名の救急隊員がわらわらと入って来て僕の周りを取り囲む。
「え? ちょ、ちょっとどういうことですか? 確かに気分は悪いですが、僕は別に救急搬送されるほどのことは……」
訳のわからぬまま、僕は慌てて保険医や救急隊員の顔を見回すのだったが……。
「あなた、いもしない子が存在するとか言っていたみたいじゃない。そんな妄想と現実の区別がつかなくなるなんてかなり重症よ? だから病院でちゃんと診てもらわないと……」
「さ、怖がらなくていいから担架に乗って」
彼女らはそう言って、僕の言葉に耳を貸そうともしない。
「いえ、河垂かすみは確かに実在します! おかしいのはみんなの方なんです!」
「これは確かに重症のようですね。君、名前は? 自分の名前をちゃんと言えるかな?」
僕は重ねて自分が正常であることを主張するが、やはり救急隊員たちは問答無用で、僕を左右から押さえると強引に担架の上へ移動させようとする。
「やめろ! 放せよ! 僕はどこもおかしくなんかない!」
僕は必死に抵抗を試みようとするが、生身の人間とは思えないような力で抑え込まれ、僅かながらも逃れることができない。
「いや、名前なんてわからなくても大丈夫だよ。すぐに記憶を修正してあげるから。さ、ちょっと安定剤を打たせてもらうよ?」
「うっ……!」
そして、無表情に冷徹な眼差しをした救急隊員は僕の首筋に注射針を突き刺さし、僕の世界は一瞬にして暗転した――。
(僕だけのあの子 了)
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