僕だけのあの子

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 これを機に、僕らはよく話すようになった。  休み時間やお昼に一緒にお弁当を食べながら、また、放課後に話しながら一緒に帰ることすらあった。  そうして、近寄りがたいまでに眉目秀麗なあの子となんの取り柄もない僕が親しく語り合っている様子に、クラスメイト達が驚きと奇異の目を向けたのは言うまでもない。  無理もなかろう。僕自身、不思議でしょうがないくらいだ。 「――というのがまあ、この件に関するわたしの仮説だ。君はどう思うかね?」  いつもそんなことを考えているのか? まるでホームズか明智小五郎のような口調で話す彼女の話は常に小難しく、哲学的とでもいおうか、この世界の内に秘められた謎や法則性に関する話題ばかりだった。  その興味の対象は多岐にわたり、自然科学から歴史、政治、経済、犯罪やオカルトめいた都市伝説まで様々である。  加えてIT技術にも精通しているらしく、ふと漏らしたところによると、どうやら官公庁や有名企業相手に夜な夜なハッキングもしていたりするらしい……その件に関してはあまり深く突っ込まないことにしたが……。  ともかくも、そんな超インテリの話を僕のような凡人が半分も理解することはできなかったが、それでも例えるならばホームズとワトソンのように、僕らは良いコンビだった。  お互い馬が合うとでもいおうか、とにかく一緒にいて楽しかったのである。  ところが、別れは突然に訪れた……。  あの子が……河垂かすみがいなくなったのだ。  いや、転校したのだとか、行方不明になったのだとかいう意味ではない。  それならまだ僕も納得しないまでも理解できたことだろう……だが、そうではなく、彼女は真の意味において消失(・・)してしまったのだ。  現在ばかりでなく、過去にも遡ってその存在自体がこの世界から消えてなくなったのである。  その異変はまさになんの予兆もなく、まるで何事もなかったかのように不意に起こった。  それは、休み明けのある日の朝、普段通りに登校した時のことだった―ー。
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