僕だけのあの子

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「――あれ? いつの間に席替えしたの?」  いつも通りに教室へ入ると、となりの席に別の女子が座っていたので、初め僕はそう思い込んで多少の驚きを覚えながらその子に尋ねた。 「席替え? 何言ってんの? ぜんぜん変わってないじゃん」  だが、その女子は周囲を見回すと、眉間に皺を寄せて訝しげにそう答える。 「いや、僕のとなりは河垂だっただろ? 確かに他のみんなは席変わってないみたいだけど……どうして河垂だけ席替わってるんだろう?」  質問がちゃんと伝わっていないようなので、僕は改めてもっと具体的に言い直すのだったが……。 「はあ? あんたのとなりはずっとあたしだったでしょう? それともなに? 遠回しにあたしじゃ嫌だって言いたいわけ? ってか、河垂って誰? そんな子うちのクラスにいた?」  ところが、彼女はますます何を言われているのかわからないという顔をすると、ひどく不機嫌な様子で逆に訊き返してくる。 「誰って河垂かすみだよ。あんな強烈キャラな女子、忘れたくても忘れられないだろ? ああ、そうか。これはあいつの悪戯だな。そうやって僕の記憶が混乱してるように思わせて驚かそうっていうんだな。なんともあいつらしい知的なドッキリだ…」  次に僕はそう考え、どこかに隠れて河垂が様子を覗っているのではないかと教室内にその姿を探してみる。 「はい? ちょっとあんた、頭大丈夫? もしかして休みボケで妄想癖が悪化した? それとも恋愛ゲームと現実の区別がつかなくなった中二病患者?」  だが、どこにもその姿は見えず、馴染みのない目の前の新たなおとなりさんは、とても嘘を吐いているとは思えない険しい顔つきになって、精神異常者でも見るような眼差しを僕に対して向けた。 「中二病って……いや、もうわかったから勘弁してくれよ。君の演技もアカデミー賞級だって認めるからさあ…」 「ほら、席につけ! ホームルーム始めるぞお!」  なんだか少し怖くなり、あっさり降参の白旗を上げようとしたその時、始業のチャイムが鳴り響くと担任教師が入って来た。 「………………」  僕は宙ぶらりんの消化不良のまま、やむなく隣人の変わった自分の席に腰を下ろしたのであるが、そのホームルームはさらに僕の頭を混乱させることとなる。
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