僕だけのあの子

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 …………いったい、何がどうなってるというのだ?  河垂が恋愛ゲームの登場キャラだって? 冗談じゃない。そもそも僕はその手のゲームをする趣味はないし、無論、ゲームと現実の区別がつかないほどの中二病患者でもない。  なんだかバカにされているような気がして、僕は怒りにも似た感情を抱くと授業も身に入らず、休み時間が来るたびにクラスメイト達を手当たり次第問い質した。 「――河垂かすみ? 誰それ? いるの気づかないくらい影薄い子?」 「――んな美少女いたら知らないわけないだろ? あ、病気がちで入学早々学校来れてないとか?」  だが……いや、もう薄々予期していたことではあるんだけど、やはり皆答えは同じで、誰一人としてあの子がいなくなったことを気にしてはいない……というより、彼女がいたことをまったく憶えていないのだ。  まるで、河垂かすみという人物が、この世界にもともと存在していなかったとでもいうように……。 「そんな、バカなことがあるのか……あ、そうだ! 昨日の写真……」  幾人かのクラスメイトと同じようなやりとりをした後、狐にでも抓まれたように唖然と立ち尽くす僕だったが、その時ふと、昨日のことを思い出して慌ててポケットからスマホを取り出した。  そうなのだ。じつは昨日、僕は彼女とデートをして、好都合にも一緒に写真を撮っていたのである!  まあ、世にいう〝デート〟というものなのかは少々疑問の余地も残るが、昨日の朝、突然、彼女から電話があり――。 「――日曜とはいえ、どうせ君は暇だろう。ちょっとデートにつきあってくれたまえ」  ――と、こちらの意思などお構いなく、ほぼ強制的にデートへ誘われたのである。  これまで一緒にお茶をしたようなこともなかったので、これが本当に初デートとなる(一応……)。  行き先は近隣の小高い山の上に建てられた展望台。 「一度、ここに来て思索に耽ってみたかったのさ」  とのことらしい。  向かう道すがら山頂にある公園を哲学的討論しながら散策し、展望台に登って小一時間、景色を眺めながら小難しいことを考える…という、なんともデートらしからぬデートコースだ。  唯一デートらしかったといえば、コンビニで買って行ったお弁当を公園の東屋で食べたことぐらいだろうか?
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