僕だけのあの子

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 それでもまあ、僕も来るのは初めてだったし、展望台からは住んでる町が一望でき、青空の下、爽やかな山上の風に吹かれながら、そうしてのんびり眺望を楽しむのもそれはそれでけっこう乙なものだ。  それに僕らが展望台に登った時、偶然にも他に人はおらず、つまりは〝景色の良い場所に僕ら二人っきり〟というデートにはもってこいのシチュエーションだった。  もっとも、当の彼女は僕になど目もくれず、当初の目的通り、ずっと遠景を眺めたまま哲学的思惟に浸っていたので、そんな胸のドキドキする雰囲気には微塵もならなかったのではあるが……。 「せっかくのデートだ。一つ記念撮影というやつをやろうじゃないか」  とはいえ、一応、彼女の中では〝デート〟という自覚があるのか? 展望台や公園の絵になる場所でタイマーを使って一緒に写真を撮ったり、お互いのスマホでスナップ写真を撮りあったりもした。  そう……だから、彼女が僕の妄想の産物ではなく、実在する人間だという確かな証拠――一緒に撮った写真がこのスマホの中にあるはずなのだ。 「…………え? どういうことだよ? どうして写ってないんだよ!?」  だが、カメラロールを開いてお目当ての写真を探した僕はさらに愕然とすることとなる。  どういうわけか、彼女の写っている写真は一枚もないのだ!   いや、僕だけが写っている写真ならばちゃんとある。だから、昨日、展望台に行った事実は確かなのだが、彼女と一緒に撮影したはずの写真がきれいさっぱり消えてなくなっているのである。  …………いや、消えたのではなく、もともとそんな写真なかったのか?   ここへ至り、ついに僕は自分の記憶に対して疑いの目を向けるようになった。  すべては、僕の妄想だったというのか? 正しいのは僕の記憶ではなく、担任やクラスのみんなの方なのだとしたら……。  それまで信じていた世界がガラガラと音を立てて崩れ去り、足元の地面がなくなったような錯覚に襲われた僕は、軽い眩暈を覚えてその場に倒れそうになった。 「おい! どうしたんだよ?」 「ねえ、ちょっと大丈夫?」  なんとか机に手を突いて転倒は免れたものの、ガタン! という大きな音に驚いたクラスメイト達が集まってきて、僕は親切な友人達の手で保健室へと運ばれた。
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