僕だけのあの子

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 当然、その後の授業はとても受けられるような精神状態になく、僕は保健室のベッドで寝かされることとなったが、横になっていても天井がぐるぐると回っているような気がして、一向に快方へ向かうような気配はない。  このアイデンティティを喪失したかのような得体の知れない恐怖と不安に苛まれながら、妄想にしては実にリアルなあの子と過ごした日々について僕はベッドの上で独り思いを馳せた。  毎日学校で話したことも、あの親しくなるきっかけとなった放課後の教室でのやりとりも、つい昨日のデートですら、すべて僕の妄想のなせる業だったというのだろうか?  昨日、僕は一人で展望台に行っていたというのに、妄想の中の女の子と一緒に行ったことにしていたというのか?  いや、それは僕だって異性への関心がないわけではない青春真っ盛りの男子高生、そんな妄想癖の疑いをかけられたら100%違うと言えるような自信はない……。  けど、妄想するにしてもどうしてあんな奇抜極まりないキャラを生み出したのだろう? 超絶美少女ではあるが特にタイプではないし、妄想でカノジョを作るんならもっとこう、カワイイ系のドジっ娘にするような気がするんだが……。  往生際悪くも納得がいかず、僕は再びスマホを取り出すと、もしかしたら何かの間違いなのではないかと昨日のデートで行った(はずの…)展望台の写真をもう一度確かめてみた。  ……が、写っているのはやはり僕一人である。  公園の花畑を前に立つ僕……東屋でお弁当を食べている最中の僕……展望台で馬鹿みたいに独りピースサインをして微笑んでいる僕……。  …………いや、ちょっと待て。これっておかしいんじゃないか?  と、その時、僕は不意にその矛盾点に気がついた。  だったら、この僕の写真を撮ったのはいったい誰だ? あの時、展望台には他に人がいなかったはずだ。  それに、記念撮影的に正面を向いているものは他人に頼んだり、タイマーを使って自分で撮ったものと考えることができるが、このお弁当を食べている時のようなものはどうなる? そんなとこを誰か赤の他人に撮ってもらうようなことや自撮りするなんてことがあるだろうか?  加えてこの嫌そうな僕の表情……これは食べてるところを勝手に僕のスマホで撮ろうとするので、彼女に文句を言っていた時のものだ。  やはり僕は誰かと……いや、あの子と二人で確かに展望台に行ったのだ。  やっぱりあの子は……河垂かすみは実在していた。じゃあ、今のこの状況はなんだというんだ!?
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