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……ああ、そういえば昨日、彼女はこの現状に関わりのありそうな、何か気になることを言っていたような……。
僕はなんとなく頭の隅に引っかかっていたその言葉を、一人で写る展望台の写真を眺めながら必死に思い出そうとする。
そうだ、あの子は確か……。
「――君は自分の記憶が正真正銘、誰からの操作も受けていないものだと証明することができるかい? もしかしたら、君が本物だと信じて疑わない家族や友人、クラスメイトだって何者かが植えつけた偽りの記憶かもしれないよ?」
――そう。そんなことを公園で遊ぶ親子連れを眺めながらぽつりと呟いたのだ。
その時は彼女特有の冗談か、あるいはいつもの思考実験か何かだと軽く聞き流したのであるが……ひょっとして、例のハッキングで何か知ってはならない世界の秘密を知ってしまったのだとしたら……。
「河垂、あの時言ったことの意味っていったい……」
山を下り、夕暮れのバス停での別れ際、あの子の言った言葉が不意に脳裏に蘇る……。
「君と話すのはやはりおもしろいね。また、明日会えたら話の続きをしようじゃないか――」
もしかして、彼女はこの事態を予期していたのか? 突然、僕をデートに誘ったのからして、本当はそのためだったとしたら……。
「…………ん?」
と、その時、遠くから救急車のサイレン音が聞こえてきて、段々にこちらへ近づいて来ると、どうやら学校の敷地内まで進入し、昇降口前辺りと思われるかなりの近距離で停まった。
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