「手」

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 ペースを崩そうとするところも樋山と似ている。 「あの、樋山先輩と俺は仲良くないんで。喧嘩自体ありえません」  答えたのだからどいてほしい。 「あれ、樋山の片思いだったのか」  ぎくっと肩を揺らす。  告白されそうになり、両手で口を押えて言わせなかった。  それにキスをして、それ以上も望まれた。こんな自分に好意を寄せてくれた。 「あの人は、誰にでも優しいから」  そうだ。信じては駄目だ。また一人に戻るのは辛くなってしまう。 「樋山はそんなに優しい男じゃないよ」 「そんなことは、ないです」  誰にでも笑顔で接する。そんな姿しか見たことがない。 「まぁ、見た目も気を付けているし、いつも笑顔だからな。ま、今のアイツを見ればわかるよ」  行くよと腕を引かれた。 「え、嫌です、離して」 「黙らないと、お姫様抱っこして連れて行くよ」  それでなくとも真田は目立つ人だ。お姫様抱っこなどされたらどうなることだろう。想像するだけで怖い。 「わかりました」  力では敵わなそうなので素直についていくことにした。 ※※※  樋山はいつもモテる。周りには女子がいて、いつも華やかなのだが、今日に限っては違っていた。  まず、側に女子が居ない。そして爽やかさがない。  どこか落ち込んでいるように見える。 「あれ、君が絡んでいるんでしょ?」 「え、いや」 「明石君、樋山って爽やかな笑顔を浮かべた王子様ってカンジじゃない?」  そう言われて頷く。いつもキラキラとして、優しい笑顔を浮かべている。 「まぁ、誰に対しても、ああいう顔なんだよね」 「誰にでも優しいということですよね」  ひとりでいる潮に声を掛けたのも、その優しさ故なのだから。 「落ち込んでいても、樋山って辛い顔をしないんだよ」  真田が潮を見る。君絡みだからと、そう言いたいのだろう。
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