「手」

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「わっ、樋山先輩」  潮の頭を撫でながら幸せそうに笑う樋山を見ていたら力が抜けた。 「好きだよ」  好きという言葉がこんなにも嬉しいものだとは。喜びが心の奥からじわっとわいてくる。 「わかってますから」  だけど素直な気持ちは伝えられず、口から出るのはつれない言葉だ。  それなのに樋山の口元は綻んだまま、潮の性格をわかっているからそうなのだろう。 「そうだね」  頭を撫でていた手は、甲側に向けられて指が頬と唇を撫でる。それだけで身体が震えてしまうのは、あの時を思いだすからだ。 「あ、だめっ」  唇を開くと指が中へとはいりこみ、上あごを弄り、付け根の下側舌を刺激するように二本の指で挟まれてゆるゆると動かされる。 「ひうっ」  変な声がでてしまう。何故と樋山を見ると、息が荒く興奮しているようだ。 「やっ」  こんな姿を見て喜ぶなんて。  口の端から唾液が流れ落ち、それを舌が拭うように舐めとっていく。  恋愛がなくとも樋山が何を求めているのかはわかる。だが、こういうことには慣れていない。  容量を超えて頭がくらくらとしてきた。 「え、あ、潮君!?」  足元から崩れ落ちる潮を腰に腕がまわして支えてくれた。 「先輩の、ばかぁ……」  顔を胸に押し付けると、ごめんねといいながら抱きしめて、あやすように背中をぽんぽんと叩いた。  恋人同士がするような行為は恥ずかしいけれど、こうやって抱きしめられるのは嫌じゃない。心が落ち着くから。  ホッと息をはき顔をあげると、優しい眼差しが向けられていて、潮の口元が自然と綻んだ。
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