「傘」

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 嫌な思いをしてまでサークルにいたくはない。樋山にサークルを抜けるといい、話しかけないでほしいと話した。  サークルの件は了承したが、話しかけないでほしいというのは納得いかないと、潮を探し出しては声をかけくる。  樋山はどこにいても目立つ人だ。人の目が向けられるたびに胸がムカムカとし、彼に苦手意識を持つようになった。 「潮君、もしかして気が付かないふりをしようとしていた?」  不自然に間が開いてしまったからばれてしまったようだ。 「そんなこと、ないですよ。だから、先輩、手」  ざわざわと気持ちが落ち着かないから話を終えてここから離れたい。  手を放してほしくて自分の方へと引っ張るが、 「本当に?」  じりじりと距離が近づき、それから離れるように後へと下がった。 「離してください」  腕を振り払い雨の中へと足を踏み入れる。もうぬれるのなんてどうでもいい。  とにかくここから、樋山の傍から離れたい。 「失礼します」  カバンをつかみ雨の中を走り出す。  視界の先、右と左に分れる道。あれを右にいけば大丈夫。樋山の住むアパートは左だからだ。  運動不足の重い足取りで右の道へと進む。さすがにここまではついてこないだろうと思っていたのに。  水の弾ける音がし、視線を上へと向けるとビニール傘が目に入ってあわてて振り返った。そこには優しい顔をした樋山がたっていた。 「なんでっ」  今もなぜ、傍にいるのだろう。 「潮君が逃げるから」  追いかけた。そう言われて、カッと顔が熱くなる。  会うたびにつれない態度をとってきた。苦手にしていることは相手に十分に伝わっているはずなのに傘を差し出してくるなんて。なんてお節介なことだろう。 「鬱陶しいんですよ」  潮は歩きはじめると雨の弾く音が続く。
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