かくれんぼ

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 僕は誰にも知られないように家を抜け出し、そしてあの子の隠れ場所に向った。  あの時かくれんぼをしていた場所のすぐ近くの古井戸。  当時、僕は大人たちと一緒に探し回った。そして自分でこの場所へ来て、『こっちにはいない』と言った。大人たちは、信じてそれ以上探さなかった。  これで、あの子のかくれんぼは完了した。はずだった。  だが、まだ終っていなかったんだな。  僕は道中灯油を買い求めて、その場に立った。昼間でも鬱蒼としていたその場所は、深夜には不気味以外のなにものでもない。  僕は慎重に足元を確認して、古井戸を塞ぐ板の隙間から、灯油を垂れ流した。そして、火のついたライターを、隙間から投げ入れた。  後は、炎に任せた。  板の隙間から覗き見える深紅の炎は、狭い井戸の中を瞬く間に呑み込んでいった。溜まっていた枯葉やら枯れ枝やらゴミやらと一緒に、すべてを燃やし尽くしてくれるだろう。  これで『さようなら』だ。 ――まぁだだよ え? ――まぁだだよ まだ、聞こえる。あの子の声が……! 何故だ?かくれんぼは今、終っただろう? ――まぁだだよ  まだ、続くのか?  いったいどうしたら、終れるんだ……!?
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