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「ああ、ケンヒライ…」
脱力してしゃがみ込んだ
たまにふざけて物真似していたのを思い出した。
「違った?」
期待満面の顔。ここは夫として要望に応えるしかあるまい。
「違わない」
立ち上がって熱唱してやった。
タカコが涙を流して感想を述べる。
「えーと、歌詞から推測するに瞳を閉じて?であってる?やっぱり!はー、やっぱりコウくん最高!大変面白かったです!」
タカコは歌の意味を分かって泣きたいのを必死に我慢していつものように振る舞ってくれた。
タカコの1人スタンディングオベーションに応えて右、左、2階席、そして最後はタカコに向かいお辞儀をしてキスをする。ここまでが一連の流れ。そう、俺たちはこんな下らない事ばっかりやっていた。
空前絶後の音痴な俺は人前では決して歌わない。歌わないのだけど、タカコには歌う。歌える。何だったら聞いてほしい。
ぶっきらぼうの極みと呼び声高いし、実際自分でもそう思っていたけれど、タカコには普通に話せたし甘えも出来た、タカコの前だけは不思議と自然体でいられた。
タカコは俺の親友であり妻であり家族であり、唯一無二の宝だった。
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