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ゆいは俺の恋人だと思っていた。
同じ会社の俺は営業、ゆいは企画。フロアが同じなので顔は知っていた。
同じフロア合同の飲み会の幹事を二人ですることになり急速に近づいていった。
確かに、よし!付き合おう!と言葉にして始まった仲じゃないけど、休みの日には一緒に出掛けるし、愛してると言い合うし、キスもする、SEXもする。
ところがだ、その日は突然やってきた。
俺のアパートに泊まった翌日、帰る時になって
「じゃ、そう言う事で私結婚するから」
何でもない風に俺に告げた。
いつものように、玄関とも言えない狭い上り口でじゃあねのキスをした後にだ。
「待って?今何て言った?」
「え?結婚するからって言ったけど?」
きゅるんとした目で見られても困るのは俺だ。
「誰が?」
「私が」ゆいが自分を指さす。
「誰と?」
「多分知らないと思うけど佐藤さんと」
「誰?」
「佐藤さん?父の会社の取引先の人だけど」
「父の会社?」
「うん、言ってなかったっけ、うち零細だけど会社やってんの」
「父がそろそろ結婚したらどうかって言うから」
呆然と立ち尽くす俺に、
「今まで良いお友達でいてくれてありがとう、結婚したらやっぱり異性のお友達は佐藤さんも嫌がると思うの、だから今日で」
おともだち?俺は仲の良いお友達だったのか・・・知らなかった。
「じゃっ」ゆいは元気よく言うと一瞬俺の目を見てドアを閉めた。
何かの冗談だと思おうとしていたのに、次の日会社に出社すると
隣の課の朝礼で課長の隣に立ち結婚報告を皆にしていた。
「あと1ヶ月、ご迷惑おかけしますが、引き継ぎ等よろしくお願いします」
にこやかに挨拶していた。
俺の視線に気づくとにっこりと笑い手を振ってみせた。
恋人にする態度ではないよな。
仲の良いお友達ならしっくりくる態度だ。
凡ミスを繰り返し、外回りもしてないのに疲労困憊でその日は終わった。
家に帰ってから、考えても考えてもどうしても納得できなかった。
ゆいに電話をかけた。もしかしてもう出てくれないかもと思っていたが、2コールで出た。
「もしも~し、どうしたの?」
ちょっと酔ってるようだった。
「結婚…」
「うん」
「…結婚式どこでやるの?」
「それは秘密かな~」
「・・・・・・」
「うそ、うそ、Aホテルだよ、午前中から」
電話の向こうからゆい~と男が呼ぶ声がした。
「さ、佐藤さんか?」
「うんそうだよ、ご飯食べてるの、用事それだけ?」
発狂しそうになりながらなんとか電話を終えた。
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