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式の会場に近づく。
どう考えてもやっぱり、ゆいは俺の恋人だった。他の男にみすみすやるわけにはいかない。取り戻そう、そう決めた。その為に俺も正装してきた。
女性3人がこそこそと立ち話をしていた。ゆいの名前が出たような気がして思わず通りすぎる足を止め壁際にあるソファーに座り何気に聞き耳を立てる。
「ゆいちゃん、可哀そうだよね」
「ね~、今、令和だよ?江戸時代かっての」
「親の会社を立て直すためのお金用立ててくれるからって、ね~」
「実際そのお金がないと、下の弟達も大変な目にあうからって」
「まだ中学生と高校生よね」
「ゆいちゃん、凄く好きな人と付き合いだして幸せって言ってたのに」
「あれでしょ、相手の人が飲み会の幹事って聞いたから自分で手を上げて幹事したって言ってた人でしょ?」
「そうそう、ゆいにしては頑張ったよね、でもその甲斐あって最近嬉しそうで、ね」
「うん、ホントにいつも惚気てごめんって嬉しそうだったのにね」
「自分が悪者になって振ったって、凄く泣いてた今でも大好きだって」
「ゆい・・・・・・」
「こんな結婚式なんて出たくなかったよ」
「本当にね~」
俺はその場から動けなかった。
なんだよそれは。
俺に何も相談せずに。
相談されても何も出来ないと思われたのか、いや違うゆいは俺に金の心配をさせたくなかったに決まっている。
なんだよ、幹事偶々って言ってたのに・・・
なんだよ、今でも凄く好きって…
俺はちゃんと、ゆいの恋人だったんだな。
それが分かっただけで充分だった。
式の後、続けて披露宴に移るらしい。人の波がわさわさと動いていく。
俺だけが反対方向に歩き出す。
車に乗り込み、隠し持っていた3本の包丁を助手席にそっと置いた。
相手の男、ゆい、俺 の為の3本。
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