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「死神という事は、俺を?」
「ですね」
「そっか」
さっきまでのもういいかという感情は、心の中で引き返そうと思えばまだ大丈夫という甘さがあったのか。死にゆく自分に酔っていただけだと気づいた。
唐突に死にたくないと思う。
我ながら勝手だ。
「いえ、生への執着はあって当然です」
死神は前を向いたままそう言った。
「どうします?」
「な、なにを?」
「残念なんですけど、ご自分でどうこうされなくても、この後すぐに寿命は尽きてしまうんですよ」
「そうなの?」
「ナイスタイミングとしかいいようがないんですけど」
ナイスタイミング、なのか?…
「ただですね、ご自分でというのと、寿命でとでは行き先が変わってきます」
「行き先?」
「端的にいうと地獄か天国か」
「せっかくなんで天国で」
「かしこまりました、ではそのままお進みください」
「あ、あの!」
「はい?」
俺はゆいの幸せを頼もうと思った、でも死神に願ってもなぁ
「ですね」
死神がヘラヘラ笑う。
超絶イケメンのヘラヘラに気が抜けた。
「あ!」
「はい?」
「あんまり、痛くしないで」
「わ、わかりました」
なぜ顔を赤らめる?
「な、なんだか隠微な会話のようで…」
「は?ああ、それもそうか」
ふふっと笑いが漏れると死神も恥ずかしそうに笑う。
なんとも気の抜けた道行だった。
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