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「何で来たの?」
「歩いて」
「いや方法じゃなくて、てか歩いて来たんだ、じゃなくて、どうしてかって事」
「ん?どうしてだと思う?」
「こっちが聞いてるのに」
「へへ、会いたかったから」
変わってない、ちょっと照れたその顔を前に暫し固まる。
「俺に、俺に会いたかったの?」
「うん、とっても」
言ってるそばから引き寄せ抱きしめた。
ただただ抱きしめた。
「俺も会いたかった」
「ここにいるって事は」
「そうみたい」
ゆいはにこやかに笑う。
ああ可愛い、じゃなくて、
「びょ、病気か?」
ふるふると首を横にふる。
「覚えてないの」
あれから10年経っていたそうだ。天国にいると時間経過に無頓着になる。
目の前のゆいはあの日のままだ。
あれからどうなったかのを聞くと、事情を知ってたのかと驚いた顔をしつつ話してくれた。
「会社もなんとか持ち直したし、弟達もしっかりしてもう大丈夫、弟達が頑張ってくれて佐藤さんにもお金返せたのよ」
「夫婦としてはうまくいかなかったけど、佐藤さんには感謝してる」
「うまくいかなかったの?」
うんと頷いた。
「佐藤さんとはお別れしたの」
役所に届けを出したのまでは覚えているんだけど、そのあとの事が良く思い出せないの。
ただ、あなたに会いたいなぁって思ったのは覚えてる。この10年ずっと思ってた。
気づいたら真っ暗闇に立ってた。
どうすれば良いのか分からずにいたら、超絶イケメンが突然現れて、さささって寄ってきてね、こちらですってエスコートしてくれて。
「本来あなたは違うところに行く筈だったんですけど、以前あなたの事頼まれかけた事があって」
「頼んだんじゃなくて、頼みかけてたんですか?」
「まあ、そんなとこです」
「あちらについたらどうか伝えてください、現世には手出しできませんが、こっちに来たら私だって一応神です、死神だってやるときゃやりますよ!ってね、ああ、あなたの姿は10年前に戻しときましたから」
超絶イケメンのドヤ顔が目に浮かぶ。
「何を頼もうとしてくれたの?」
抱きしめた胸の中でゆいが聞く。
照れ臭いので小声で伝えた。
「ゆいの幸せ」
ゆいが俺に回した手にギュッと力を込めた。
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