贈り物(元犬)

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贈り物(元犬)

 あの日、どちらかが素面だったなら、僕と俊介がこうして一緒に暮らす事はなかった。 俊介サイド  俺は寝る時は全部脱ぐ派だ。 つけっ放しにしているラジオから、 「寝る時の全裸、この開放感はやめられないですね~」 そんな声が聞こえてきた。  彼女からの束縛、上司からの締め付け、同僚からのやっかみ、後輩からの突き上げ、客先からの無理難題…。  何もかもがうまくいかなかった半年前、ラジオからの声がするっと耳に入り込み、そうだ!寝る時くらい何にも縛られなくてもいいだろ!と思い立ち、 勢いで着ている部屋着、下着、全てを脱いだ。全裸になり、取り敢えず拳を突き上げてみた。鏡に映るそのポーズに少し照れてしまい、そそくさと布団に潜り込み眠った。  翌朝思いの外良く眠れた事に感動すら覚えた。 睡眠不足が解消し体も楽になり、そのお陰で仕事も順調に回りだした。 彼女ともきちんと向き合う事が出来た。  不思議な事にあんなに束縛していた彼女が、 「私も依存をやめたいと思っていたの・・・あなたへの思いは愛情じゃなくて執着に近くて、自分でもあなたを苦しめている事が苦しくて堪らなかった。こうしてきちんと向かい合えて良かった」 そう言ってくれて、お互い笑顔で円満に別れることになった。  全裸睡眠!良いこと尽くめじゃないか! それからはずっと全裸で寝ている。  だから、あの日もそうしたまで。 ただ、自宅だと思っていたのが、人んちの庭、それもちょっと大きめの犬小屋だっただけだ。 「しろー」 突然号泣が聞こえ飛び起きた。 「痛っ」 頭を打って周りを見渡して驚いた。 何ここ?俺んちじゃない、い、いぬ、犬小屋だ…そう認識できるほどには酔いが覚めていた。酔っていたからって、なんでこんなところに・・・。  目の前の若い男が全裸の俺に抱きついてくる。 「しろ〜お帰り〜、そうかしろは人間になったんだね、兄ちゃんは嬉しいよ、しろは色白でふわふわ、じゃなくてすべすべだね」  俺の体を無造作に撫で回し、うるうるした目で俺を見つめ、俺の鼻に自分の鼻を近づけてすりすりし、首に抱きつきまた泣き出す。  呆気に取られたのと、勢いに圧倒されたので、俺はされるがままだった。  俺が言えた事じゃないけど、抱きついてきたそいつからも、アルコールの匂いがぷんぷんしてきた。 そのアルコールの匂いで我に帰った俺は 「ちょ、ちょ、酒くせぇ!離れて!もう!」 ぜいぜい言いながらやっと引き剥がした。  場所も状況もわからない中、肩で息をして仁王立ちで、引き剥がした若い男を見下ろしているうちに、体が冷えてきた。周りを見渡し、犬小屋の入り口付近に自分の服を見つけた。  若い男は、俺の逆ストリップをみながら、やんやの拍手を送ってくる。 「しろはお着替えも出来るんだ、うまいよ、上手に着れてるよ!ああ!靴下まで履けるの?凄い!やだ、靴まで履くんだね」 服を着て褒めらるなんて。 靴履いて涙ぐまれるなんて。 俺はどうしたらいいんだ。天を仰ぐ。 着替え終わり天を仰ぐ俺を見て、 「遠吠え我慢してるの?おりこうだね~」 頭をがしがしと撫でて、 「お着換え良くできました!じゃお家に入ろうね」 また犬小屋に押し戻されるのかとビクッとしたが、手を引かれ入ったのは、この家の玄関だった。
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